家族3人で会った最後の日
大輔さんを最も苦しめたのは、仮処分に勝訴した翌月の2016年4月、聖子さんが離婚調停(その後の離婚訴訟を含む)を起こしてきたことだ。
聖子さんは「裁判で偽装別居の話は死んでも言わないでね」と言っていた。それを忠実に守っていた大輔さんは、離婚訴訟でどんどん不利になっていく……。
「両親に怯えていた彼女は裁判で虚偽の主張をし、私には『反論しないでね』と要求。この頃、ミツカンの顧問弁護士から『離婚調停中であるため、息子の写真を見せる予定はない。息子に会わせる予定もない』との妻名義の文面も届きました。義父母の圧力によるもので彼女の本心ではないことは頭ではわかっていましたが、私への要求ばかりで、息子に一切会わせないし、どうなってるのっていう話になって……二枚舌ではないかと。だんだん感情が抑えられなくなっていったんです」
2016年8月19日、大輔さんの誕生日に聖子さんは、
「仲良し家族 大好き」
というメッセージとともに、家族3人の写真を【Secret Family】に投稿した。だが、この投稿を最後に音信不通になった。
「彼女はミツカンの代表取締役。家族を引き離して敗訴した側の代表者でありながら、裏では偽装別居で家族を守っているという矛盾した立ち位置。両親と息子と会社を取るか、それとも私を取るかですから、もとより勝ち目は薄かった。彼女は次第に、破壊行為を繰り返す和英氏・美和氏を擁護する側へと落ちていったんです」
2019年6月、最高裁への上告が棄却され、大輔さんは離婚裁判で敗訴した。
大輔さんは、実は2016年1月18日から23日までの間、秘かにロンドンの自宅を訪れて家族3人の時間を過ごしている。当時の日記には、3カ月ぶりに再会した1歳半の息子が満面の笑みでトコトコと駆け寄ってきてくれたことに感動した様子が記されている。
英国での最後の日、大輔さんがヒースロー国際空港行きのタクシーに乗り込む直前に、聖子さんは涙を流しながら言った。
「会えるのはこれが最後になるかも。少なくともあと1年ぐらいは……」
この日が、家族3人で会った最後の日となった。
マスコミの取材を受け解雇
2017年3月、大阪での自宅待機が1年を過ぎる頃、突如として配属先が東京支社と決まり、大輔さんは再び働き始めた。労働組合を通じた団体交渉や企業倫理室への内部通報、さらには取締役を含む幹部14名全員への直訴といった手段によって問題の解決を目指すも、効果はなかった。
そんななか、情報をキャッチした『週刊文春』が大輔さんに接近、取材を依頼してきた。
彼は悩んだ末に取材を受け、2019年5月、「ミツカン『酸っぱいお家騒動』」と題する記事が掲載された。ついで、テレビのワイドショーの取材が相次いだ。しかし、それを重く見たミツカンは、同年8月、大輔さんを即日解雇してしまったのだ。
「フジテレビの報道は公平な視点とは言えず、むしろミツカンに大きく肩入れした内容でした。ミツカンはフジテレビのスポンサーですから、偏向するのもある意味、仕方のないことかもしれません……。マスコミの取材を受けたのは、ミツカンの反社会的、非人道的な行為を内部に対して4回も通報したにもかかわらず、すべて無視されたからです。解雇が不当であることは明らかであり、私はいまもミツカンを相手取り係争中です」
プロジェクトチームを作ってまで選び、そして迎えた大輔さんに対し、和英氏・美和氏はなぜここまで酷い仕打ちをしたのだろうか。彼らがした行為は、大輔さんや聖子さんへの人権侵害だけではない。孫である男の子から実の親を奪うという児童虐待でもあるのだ――。
(初出:月刊『Hanada』2022年8月号)