年末の来年度予算案編成最大の焦点は防衛力増強の財源で、優先すべきは故安倍晋三元首相が言及した「防衛国債」の発行論議である。防衛国債は経済、防衛を含む国力挽回の決め手になり得る。ところが、岸田文雄首相に対する「有識者会議」提言は国債発行を否定し、増税を求めている。国民から需要を奪い、経済及び防衛力のゼロ成長を招いてきた緊縮財政路線の墨守であり、国力を弱くしかねない。
有識者提言の虚実
有識者会議は「経済力と財政余力がなければ、国力としての防衛力がそがれかねない」と指摘した。その通りだが、日本の国力は過去25年間もそがれ続けてきた事実を素通りしている。
経済力を代表する国内総生産(GDP)は、1997年以降25年間の平均成長率はゼロ%である。財政力を示す政府全般の純債務のGDP比は97年当時約30%だったのが2021年には130%に膨らんだ。防衛費はGDP比1%を目安にしてきたが、GDPが増えないのだからその道連れだ。この間、中国はGDP、軍事費とも16倍、米国はそれぞれ2.9倍、2.8倍、英国2.5倍、2倍、ドイツ1.9倍、1.7倍だ。
GDPが伸びないのは国内需要を萎縮させるデフレのためだ。ところが政府は消費税増税と財政支出削減、社会保険料引き上げによってデフレ圧力を高める政策をとってきた。
有識者提言は安定財源確保のため、「今を生きる世代全体で分かち合っていくべきである」「幅広い税目による負担が必要」と強調し、返す刀で国債発行を切り捨てた。戦時国債を引き合いに出し、「国民の資産が犠牲になった」と言う。敗戦で破壊されたのは国債に限らない。人命、生産設備、インフラ、国土すべてだ。なのに、国債だけを取り上げて国民を脅す。
有り余るカネを活用せよ
国債といえば、今はどうか。日本国債の9割以上は国内の金融機関が保有する。家計の現預金だけで1100兆円、企業の内部留保500兆円超など、有り余るカネが安定した国債市場を支えている。増税の範囲内でしか増強されない防衛力のままだと、有事の場合、強権独裁国家に脆弱さを突かれる不安が高まる。日本売りが起きると金融資産が暴落するだろう。
防衛国債は防衛力を含む国力を高め、抑止力を確保する真の安定財源である。防衛費が2倍になるとしても、総額は11兆円程度である。政府は有り余るカネを吸い上げ、5年以内にサイバー戦能力を含む抜本的な防衛力の拡充を楽々と実現できる。それは民間のハイテク投資の呼び水となり、経済のダイナミズムを生むだろう。(2022.11.28国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)