衆院3補選「3つ勝たれて、3つ失った」自民党の行く末|和田政宗

衆院3補選「3つ勝たれて、3つ失った」自民党の行く末|和田政宗

4月28日に投開票された衆院3補選は、いずれも立憲民主党公認候補が勝利した。自民党は2選挙区で候補者擁立を見送り、立憲との一騎打ちとなった島根1区でも敗れた。今回はこの3補選を分析し、自民党はどのように体勢を立て直すべきかを考えたい。(サムネイルは錦織功政氏Xより)


自民党候補は島根1区でなぜ完敗したのか

まず、長崎3区補選であるが、政治資金パーティー券の不記載問題で自民党の谷川弥一衆院議員が辞職したことに伴うものであった。長崎3区は、次回衆院選では区割り改定により大部分が長崎4区と統合されることから、今回、自民党は候補者擁立を見送り不戦敗。立憲候補と維新候補の戦いとなり、立憲候補がダブルスコアで圧勝した。

そして、島根1区であるが、自民党候補は完敗であった。自民党の細田博之前衆院議長の死去に伴う補選であり、平成8(1996)年に小選挙区制となってからは1回も自民党が落としたことのない選挙区だったが、今回は敗れた。

立憲は元衆院議員の亀井亜紀子氏、自民は元財務省中国財務局長で新人の錦織功政氏を擁立したが、亀井氏8万2691票、錦織氏5万7897票と、約2万5千票差をつけられた。

これだけの票差をつけられたことは衝撃であり、出口調査の数字からも自民党が置かれている厳しい状況がわかる。NHKの出口調査によれば、普段支持している政党を聞いたところ、自民党が37%、立憲民主党が18%と倍以上の支持があるのに敗れた。

自民党の支持層の約30%が亀井氏に流れ、無党派層の70%台後半が亀井氏に投票した。また、投票する際に、「政治とカネ」の問題を考慮したかを聞いたところ、「考慮した」が76%、そのうち約70%が亀井氏に投票したと答えている。

つまり、政治資金パーティー券の不記載問題がなければ、自民党候補が勝っていたわけで、有権者はこの問題で「自民党にお灸を据える」という行動に出たために敗れたのである。

4月29日のテレビ朝日の報道では、40年にわたる自民党員で地元の森林組合の組合長を務めた方が、亀井氏に投票したと取材に答えた。
「派閥の資金問題に納得できる説明がなされていない。自民党に反省を促す意味合いもあり、立憲・亀井さんに投票した」

長年の自民党員も「反省を促す」ために相手候補に投票するという極めて厳しい状況であり、今、解散総選挙を行えば、全国各地の選挙区で同様のことが起きる。自民党は大敗し、政権を失いかねない状況であることが改めて明らかとなった。

さらに、NHKの出口調査では、投票する際に最も重視した政策について聞いているが、最も多かったのが「経済政策」で34%であった。春闘での賃上げ率は5%を上回り、政府与党の経済政策は効果を上げてきているが、子ども・子育て支援金の導入など岸田政権には負担増や増税イメージがついており、外的要因による物価上昇も含め、国民にとって暮らしが良くなっているという実感が乏しい。

特に地方においてそうであり、私も島根入りした際に錦織候補に、生活や暮らしの実感がこの先どう変わるかという「手触り感」の演説が重要であるとアドバイスしたが、最終的に有権者に届かなかった結果となった。

東京15区、自民党の大きな戦略ミス

東京15区補選は、自民党の柿沢未途衆院議員の辞職に伴うもので、自民党は最終的に公認候補擁立や推薦を見送った。私はここに自民党の大きな戦略ミスがあったと考える。NHK出口調査で、普段支持している政党については、自民党が24%、立憲民主党が11%で倍以上の数字である。

島根1区と異なり、東京15区は各政党の候補者が乱立したので、自民党は勝てる可能性がある選挙区で擁立しなかったことになる。実際に、自民党が候補者を擁立した場合の世論調査の数字を私は知っているが、自民党は候補者を擁立すれば勝てた可能性が十分あった。

NHKの出口調査で衝撃的なのは、自民党の支持層の20%が維新候補に投票したのは理解できるが、10%が立憲候補に、20%が須藤元気候補に投票したことである。

須藤候補は無所属候補として2位に入ったが、選挙戦ではれいわ新選組の山本太郎代表の応援を受け、消費税減税やインボイス廃止をはじめ、れいわ新選組に近い政策を訴えた。地元出身であり、直前まで参院議員であったというのはあるが、須藤候補、立憲候補といった革新系候補に自民党支持層の30%が投票しているのである。

つまり、自民党の政策の軸が自民党支持者からも魅力的に感じなくなっており、求心力を失っていると分析できる。政策の軸がしっかりしていれば、それと対照的である革新系候補へは票は流れない。安倍政権においては、経済再生のアベノミクス、安全保障の強化など、「豊かで平和な日本を守り抜く」という政策の軸が確固としていて、国民が支持し自民党支持者も増えた。

しかし、岸田政権となり、防衛費増額に伴う増税、子ども・子育て支援金創設など、自民党政権に負担増イメージが付き、賃上げなどの政策効果も国民にとってはまだ実感が乏しい中で政治資金不記載問題が加わり、果たして自民党を支持して良いのかの迷いが確実に有権者に出ている。

今なすべきことは、増税をせず、負担増をせず、アベノミクスを完遂させ国民の所得を上げていくこと。そして、徹底した党改革を行い、責任を取るべき人が責任を取り、政治資金不記載問題に決着をつけることである。政治資金規正法の改正はもとより、自民党として徹底した党改革と政治改革を国民に約束する「新政治改革大綱」の策定は当然だ。

今回の衆院補選は、立憲に3連勝されたが、我が党自身を見つめれば、前回衆院選で勝利し得た3議席全てを失っているのである。3つ勝たれて、3つ失った。国民が自民党に失望し、「さらにお灸を据える」ということになれば、本当に大どんでん返しが起きてしまう。決死の党改革とアベノミクス完遂を目的とする経済政策の立て直しが求められる。

私は党内で懸命に提起し、必ず実現していく。

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