米韓合意で際立つ非核三原則の非常識|田久保忠衛

米韓合意で際立つ非核三原則の非常識|田久保忠衛

日韓両国にとって最大の同盟国の米国がどれだけ「衰退」しているかは、わが国ではあまり議論されない。今やNATOに高まっているのは国防費をGDP比3.5%に引き上げようといった議論であり、日本は自由主義諸国の中でも後れを取っていることにどうして気付かないのか。


中国、ロシア、北朝鮮がいずれも核保有国だという事実を考えるだけで、日韓両国は世界で他に例のない危険な国際環境に置かれていると断定できる。だから日韓両国はひたすら米国の拡大抑止力に依存してきた。その米国の威信が揺らぎ始めた。

尹錫悦韓国大統領は国民の核武装賛成論を背景にバイデン米大統領との間で従来の拡大抑止の「グレードアップ」(格上げ)に成功したとハーバード大学での講演で強調した。韓国が安全保障への危機感から核問題の擦り合わせに乗り出したのにかかわらず、日本が非核三原則を維持する建前を取り続けているのは奇怪ではないか。

隠せぬ米国の威信低下

日韓両国にとって最大の同盟国の米国がどれだけ「衰退」しているかは、わが国ではあまり議論されない。しかし、最近の出来事を二つだけ挙げる。一つは、中国の仲介によりイランとサウジアラビアが外交関係の正常化に合意したことだ。両国関係が順調に進展するかにわかに判断しかねるが、米外交にとっては一大衝撃だろう。米国の中東政策の原点は、第2次世界大戦末期にスエズ運河の米巡洋艦上でサウジのサウド国王と会談したルーズベルト米大統領が、安全保障の約束と交換に石油入手のルートを確保したところにある。この基本的構図は崩壊し、中国は「一帯一路」の重要な地域を確保した。

二つ目は、米国が1年以上続くウクライナ戦争に直接の軍事介入をしないだけでなく、プーチン・ロシア大統領の一再ならぬ核の恫喝に立ち往生していることだ。とりわけ米国の「核の傘」に依存してきた日韓両国が、米国による従来の拡大抑止に不安を抱くのは当然だ。尹大統領の訪米の出発点が突き詰められた安全保障観に発しているとすれば、対日政策の柔軟化には新しい評価を下す必要がある。

米誌フォーリン・アフェアーズのウェブ版に米国の新進研究者2人が書いた「韓国の核オプション」と題するリポートを読んだ。①韓国独自の核武装②米国の核兵器の国内再導入③北大西洋条約機構(NATO)加盟国の一部が採用している「核共有」方式―の三つの選択肢を前にして、韓国が苦渋の選択をした背景が明らかにされている。韓国は核問題でとうに日本の先を走っている。

戦略3文書を過大評価するな

日本では昨年末に閣議決定された戦略3文書の評価が高く、防衛費は間もなく国内総生産(GDP)の2%を実現すると鼻にかける向きがある。しかし、自衛隊は警察予備隊以来の警察法体系の下にあり、非核三原則は残り、「専守防衛」のため防衛力は「必要最小限」のものに限るという説明がまかり通る。自衛隊員が敵を殺した場合、軍法会議がなければ刑法の殺人罪で裁かれかねないという異常さは何も変わっていない。

NATOに高まっているのは国防費をGDP比3.5%に引き上げようといった議論であり、日本は自由主義諸国の中でも後れを取っていることにどうして気付かないのか。(2023.05.01国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

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