まず五年前の「ケネディ暗殺機密文書」公開のきっかけとなったのが、一九九一年に製作されたオリヴァー・ストーン監督の映画『JFK』の大ヒットだったのを忘れてはならない。
映画に描かれたCIA、軍部等軍産複合体の陰謀によりケネディ大統領が殺されたという大胆な仮説が、一九六四年の政府公式見解(ウォーレン委員会報告)に疑念を抱き続けてきたアメリカ世論を頂点にまで引き上げた。
その世論の高まりによって映画が公開された翌年にJFK記録収集法が制定され、同法に基づき二十五年後の二〇一七年十月二十六日、JFK暗殺に関わる非公開文書二千八百九十一件が公表されたわけである。
そこで新たに判明した事実を基に、映画『JFK』にもふれながら事件の真相に迫ってみたい。まず本論考がよりどころにしているヒストリーチャンネルの番組を制作したロバート・ベアの見解について簡単に評するなら、引用された膨大な機密文書の分析を基に、貴重なインタビューや徹底した取材による新証拠を加えた科学的かつ実証的なケネディ暗殺論といえよう。
興味深いのは、ベアの主張する新説が映画『JFK』の結論とまったく異なるとはいえ、同作品に描かれた暗殺論の延長線上に位置している点ではないか。
膨大な文書(関連資料約五百万ページのうち全面公開されているのは八八%で、一一%は部分公開にとどまり、残りの三千件が非公開となっていた)を読み解いたロバート(ボブ)・ベアの人物像についてまず紹介する。
前職は有能なCIA局員で、二十一年間世界を股にかけ活動していた。二〇一六年にCIAを辞めロサンゼルス警察の元警部補バーコヴィッチらとケネディ暗殺解明にさっそく取り組み、同年に調査した経過を『機密文書公開!ケネディ暗殺とオズワルドの謎』という一回五十分ほどの記録映像を六回に分け、長尺のドキュメンタリーとして完成させた。
その六回分の番組と二〇一七年十月の機密文書公開直後に製作された続編『解禁!JFK暗殺事件の未公開ファイル』(約五十分)を合わせ、それらの映像をたたき台に、以下ケネディ暗殺の「新事実」を詳述していく。
暗殺直前に電話が
それでは、続編のドキュメンタリー冒頭シーンより始めよう。画面にはいきなりCNNニュース番組が映し出され、「1992年JFK暗殺に関する文書の公開が法制化された」の文字が出た後、CNNの女性キャスターがこう質問する。
「ボブ・ベアさんにお尋ねします。公開される文書に真相が記されていると思いますか?」
重要コメンテーターとして画面に顔を出しているベアが「そうですね、真相に近づくための大きな鍵が隠されていると思います」と答えると、すぐに「午後7時半暗殺事件に関する2891件の機密文書が公開された」の文字が浮き上がる。
観る者をワクワクさせるオープニングだが、中身はさらにエキサイティングだ。
ボブが公開された文書を読みながら、興奮した面持ちで「見てくれ、重大な情報だ」とドキュメンタリー取材班のメンバーに声をかけると、画面にはCIA防諜部長アングルトンが一九六三年十一月二十六日に作成した文書の文字が大写しとなる。
ナレーターの「同文書により英国の新聞社に奇妙な電話があった」ことがわかったとの指摘に続き、ボブが英国の内部情報機関?Ⅰ5によると、ケンブリッジニュースに密告があったと述べる。
「重大な事件が起きるから米国大使館に電話しろ」と、大統領が撃たれる二十五分前に電話がかかったという。オズワルドからの電話でないのは明らかなため、事前に暗殺を知る第三者がいたことになる。
ここで映像は一転して二〇一六年の調査時に制作されたテレビ番組のシーンへカットバック。ボブとバーコヴィッチがキューバの元諜報員エンリケ・ガルシアに会い、彼の防諜部同僚がケネディ暗殺当日、テキサス州からの通信を傍受するよう命令されたとの証言を引き出した場面へ。
ボブが誰の命令だと問うと、エンリケはこう答える。
「キューバの命令は全てカストロから出た」
カストロは事前にダラスでの暗殺を知っていたのではないか。