一九六三年三月十九日、CIA副部長からFBIへの機密メモによると、タマヨ即ち別名エル・メキシカーノは、キューバ政府に雇われマイアミに住んでいたという。ボブはこの男について、こう述べる。
「ルイジアナの訓練施設で責任者を務めただけでなく、暗殺前からハバナに内通していた可能性がある。カストロの二重スパイだ。これが本当なら、米国大統領は外国政府に暗殺されたことになる。
キューバ政府はどうやって暗殺計画を知ったのか、これが答えだと思う。暗殺後、この情報が外に出ていたら、キューバへの戦争行為を正当化していただろう」
非常に興味深いケネディ暗殺論だが、なぜか、我が国のマスコミでは扱われなかった。アメリカでは、民主党系テレビ局CNNのような大手でさえ、機密文書が公開された当日、ボブ・ベアを重要コメンテーターとして報道番組に登場させているのに、である。
同ドキュメンタリーはもう一つ驚くべき説も提起している。オズワルドがF・タマヨとメキシコを訪れた際、ソ連大使館に行った件で、その場には前述したように暗殺を行うKGB第13課のトップもいたが、この人物については、ドキュメンタリーの第二話で既に名前もコスティコフとわかっていた。
それがCIAのオズワルド監視記録によって再び確認されたわけである。
CIAメキシコシティ支部が一九六三年十一月二十三日に本部に送った文書によると、コスティコフは、オズワルドに会った時、既に米国に脅威を与える人物としてCIAの監視下にあった。つまりケネディが暗殺される八週間前、オズワルドはキューバの大物二重スパイと一緒に、ソ連の暗殺部隊のトップに会いに行ったことになる。
当時の米ソ関係を振り返り、その意味するところを、より深く掘り下げてみよう。
一九六〇年代初頭は、東ドイツがいきなりベルリンの壁を築くなど、米ソ対立の緊張が高まっていた。そんな時、一九六一年一月にアメリカと断交したばかりのキューバへ、ソ連のフルシチョフが核ミサイルを極秘裏に送り込んだため、いわゆるキューバ危機(一九六二年)が起きる。
世界中を震撼させた核戦争危機は、ケネディ大統領の采配や偶然性により何とか回避されたが、フルシチョフの確約した核ミサイル撤去は、キューバの査察拒否のため、その真偽を確認できなかった。
国際共産主義勢力の謀略工作
当時ソ連とキューバは極めて密接な関係だったのに加え、キューバ危機の翌年にケネディが暗殺されたのを思い起こす必要がある。
事件直後犯人として逮捕されたオズワルドは、一九五九年より二年間、ソ連で亡命生活を送っていたから、主犯がソ連だと疑われる状況証拠は十分過ぎるほどあり、事実の解明によっては米ソの全面核戦争に発展しかねなかった。まさしく世界は破滅の一歩手前だったわけである。
それゆえ、機密文書公開により確認されたソ連KGB第13課のトップとキューバの大物二重スパイがオズワルドと共にメキシコシティで接触したことは重大な意味をもつ。
ボブは「ソ連は暗殺にどうかかわったのか?」といった問題を提起しつつ、KGBに詳しい英ガーディアンの記者ルーク・ハーディングにインタビューしている。
ハーディングは、KGB第13課について、汚れ役を専門に引き受ける部署で、その任務は国家の敵を殺害するのを含み、手口は毒殺や爆弾など様々。本来はソ連人の仕事だが、キューバから工作を受けていたオズワルドを暗殺に使うのも当時ならばあり得るという。
具体例として、ブルガリアの反体制派に対しKGBの毒を使った事件をあげ、こう語る。
「モスクワとキューバが協調してもおかしくない」
この証言は、当時のソ連スパイ工作が世界中でどのようにおこなわれていたか、また同時代、ソ連、中国、北朝鮮の情報機関による日本国内のスパイ活動の実態を分析するうえでも、大きなヒントを与えてくれる。
一九九一年のソ連崩壊により、一時はソ連共産党の秘密工作が、我が国に対するものも含め、暴露されると期待されていた。
例えば、「野坂参三、二重スパイ事件」。小林俊一・加藤昭両記者がソ連秘密文書研究を調査、戦後日本共産党の顔といわれた野坂参三が長期にわたりソ連共産党のスパイとして暗躍していた闇の歴史を、『週刊文春』がスクープし、暴いた。
結局、日本共産党もこの事実を認めざる得なくなり、一九九二年、最高幹部の一人だった百歳になる野坂を除名した。当時は、モスクワにある機密文書館はかなりオープンに文書を公開していたが、その後は、文書を自由に閲覧できなくなり、KGB出身のプーチン大統領の在職期間が続く中で、ソ連の悪行は再びベールに包まれてしまう。
そこで二年前のアメリカ大統領選挙で、歴史に残る一大不正選挙が行われたという疑惑を思い出すべきだ。ジョー・バイデンが大統領に就任した後も、アメリカ社会に大きな謎と疑問を残しただけでなく、外国勢力の選挙介入という疑惑もある。
そう考えると、今になってケネディ大統領暗殺の黒幕としてキューバとソ連の名前が公然と浮上してきたことは、今日の中国共産党とバイデン政権の関係を理解するうえで極めて示唆的である。
中国のサイレントインベージョン(目に見えぬ侵略)がオーストラリアをはじめ、国際社会を席捲しつつある現在、ケネディ暗殺事件の新証拠発見も、国際共産主義勢力の世界史における謀略工作として、今こそ解明されるべきではないだろうか。