西側諸国と中国との深い葛藤の内幕
『豪州と中国戦争前夜』はクライブ・ハミルトンの原著と同様、中国共産党が豪州及び北米、欧州でどのように浸透・転覆工作を繰り広げているのか、その全貌を掘り下げ、中国共産党の攻略下で錆びついている国際連合(UN)と世界保健機関(WHO)など様々な国際機関の状況、そして新疆ウイグル自治区やチベット、香港での深刻な人権弾圧の現実などが詳しく書かれている。読者はここ数年間、外信で頻繁に取り上げられた、特に豪州が加盟するクアッド(QUAD)、オーカス(AUKUS)のようなインド太平洋における民主国家の新軍事同盟の背景も、この本で完全に理解出来るだろう。
『豪州と中国戦争前夜』は、基本的には日本の読者を対象に出版されたものなので、中国共産党の浸透・転覆工作に晒された日本の現実が具体的に解説されており、豪州のみならず日本と韓国の状況を比較する機会も提供している。
韓国は最近、尿素水騒動(ディーゼル車の排ガスを浄化するために必要な「尿素水」が品薄になっており、物流が混乱する懸念が高まっている)により豪・中の葛藤の流れ弾を受けた経験がある。新疆ウイグル自治区や香港での人権弾圧などの問題、2022年北京冬季五輪ボイコットに豪州をはじめ多数の西側諸国、さらには日本までが加わった状況下で、西側諸国と中国との深い葛藤の内幕は米中覇権争いと共に、今や韓国社会でも分析、議論の必須テーマとして取り扱うべきである。
特に、その葛藤の内幕に「統一戦線」を活用した中国の民主国家への浸透・転覆工作が強力に取り上げられているため、韓国も今こそ緊張感を持ち本格的な自己診断を行うべきである。『豪州と中国戦争前夜』は、このような自己診断のチェックリストを的確に提供している点でも、やはり意義深い。
原著『「目に見えぬ侵略」「見えない手」 副読本』を執筆した『月刊Hanada』編集部は、元『週刊文春』編集長の花田紀凱が率いる。本の企画力はもちろん、目が回るほど多忙を極める世界的知識人であるクライブ・ハミルトンから、2020年に既に長文の原稿を書かせるなど、その交渉力にも感心させられた。
『豪州と中国戦争前夜』は、今年中国との国交回復30周年、台湾との断交30周年を迎える韓国が、北東アジアの外交安保戦略を再検討し再決算するためにも貴重なテキストとなる。(翻訳/黄哲秀)