新薬の未来を潰した、河野太郎の傲慢政治|小笠原理恵

新薬の未来を潰した、河野太郎の傲慢政治|小笠原理恵

「科学技術振興予算は今後、増えません」と断言し、画期的なオプジーボを叩いた河野太郎氏が、2021年1月にワクチン担当大臣となったことは悪い冗談のように思えた。一方で、「創薬力の強化は喫緊の課題であり、医薬品の研究開発費への大規模投資がいまこそ必要」と訴える政治家もいる。高市早苗政調会長である。国を守るとはどういうことか。日本の課題を徹底検証!


日本共産党の小池晃と河野太郎

2016年4月、財政制度等審議会・財政制度分科会は、肺がんにこの薬を使うと年間1兆7500億円の支出となると公表。すぐに小野薬品は、オプジーボの2017年3月期の売上高の見通しは1260億円だと財務省審議会の試算に反論した。

小野薬品の主張は認めてもらえず、厚労省はオプジーボの薬価の25%の切り下げを検討。しかし、これに嚙みついたのが日本共産党の小池晃氏だった。

同年10月6日の予算委員会で、小池氏は「企業の言い値で大盤振る舞いだ」 「25%ではあまりに不十分。大幅に引き下げるべきだ」と政府を追及。「しんぶん赤旗」もこれを大きく報じた。

同年11月16日、厚労省はこの流れに屈し、2018年度の薬価改定を待たず、臨時措置として2017年2月にオプジーボの価格を50%引き下げることを決定した。

共産党はその後も集中的にオプジーボの価格引き下げを迫り、2018年にも2回価格が引き下げられた。2021年8月にも価格は引き下げられ、現在、オプジーボの価格は100ミリグラム約15万5000円。当初の価格の約5分の1に切り下げられている。

日本の医薬品メーカーのやる気を削いだのは日本共産党だけではない。2015年10月、第3次安倍改造内閣で国家公安委員長兼行政改革担当相として初入閣した河野太郎氏もそのひとりである。

河野氏は2016年、政策セミナーで「オプジーボの値下げは私の功績だ」と語っていた。

しかし、共産党の口車に乗せられて日本発の画期的新薬の未来をずたずたに切り裂いたことが、はたして功績と言えるのだろうか。

河野太郎に裏切られた研究者たち

医薬品の価格や研究資金を削減することに熱心だった河野氏は自身のブログ「ごまめの歯ぎしり」で、33回にもわたり研究者の皆様へという投稿を繰り返している。研究者の意見を大臣がブログで聞いてくれると期待されたやり取りだった。このなかで、大学の研究者たちは研究予算の充実を求めていた。しかし、対話への期待は見事に裏切られた。

大臣退任後の2017年1月(当時の肩書は自民党・行政改革推進本部長)、
「科学技術振興予算をもっと増やせるという幻想を抱いている方がいらっしゃったら、年明け早々にも現実を直視していただきたいと思います。科学技術振興予算は今後、増えません。だから現在の予算をいかに効率的に使うか、あるいは成果を生まない大型プロジェクトをつぶしてほかのことに振り替えるか、または成果を生まない研究者の予算をほかに振り替えるかしなければなりません」
と回答した。

2020年9月、行政改革担当大臣に再び就任した河野氏は、予算の無駄を検証する「秋の行政事業レビュー」で次のように述べている。

「薬価の決め方は、知的所有権を含めて難しい問題があることは理解するが、国民がある程度納得できる決め方はどうしたらいいか。海外の事例を調べるなど、いまのやり方について不断の検討をすることは必要だ」

「医療費がここまで大きくなり、高齢化に伴って医療費が大きくなるなかでどう適正化するかは、国民の大きな関心事だ」

河野氏も日本共産党も「国民のため」というが、本当に国民のことを考えているのだろうか。国家をどう守るのか、彼らにはマクロな視点が欠けている。

たしかに、世界中で必要とされる画期的なオプジーボは国民皆保険制度のなかでは医療費を圧迫するだろう。だが一方で、国を豊かにしてくれるファクターとしてとらえれば、他にも道はあったはずだ。日本の誇る新薬の未来を上手に使う議論もせず、簡単にその価値を切り下げてよかったのか。

科学技術振興予算を増やさないと断言し、画期的なオプジーボを叩いた河野氏が、2021年1月にワクチン担当大臣となったことは悪い冗談のように思えた。

関連する投稿


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

衆院選が終わった。自民党は過半数を割る大敗で191議席となった。公明党も24議席となり連立与党でも215議席、与党系無所属議員を加えても221議席で、過半数の233議席に12議席も及ばなかった――。


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

9月27日、自民党新総裁に石破茂元幹事長が選出された。決選投票で高市早苗氏はなぜ逆転されたのか。小泉進次郎氏はなぜ党員票で「惨敗」したのか。石破新総裁〝誕生〟の舞台裏から、今後の展望までを記す。


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。