新薬の未来を潰した、河野太郎の傲慢政治|小笠原理恵

新薬の未来を潰した、河野太郎の傲慢政治|小笠原理恵

「科学技術振興予算は今後、増えません」と断言し、画期的なオプジーボを叩いた河野太郎氏が、2021年1月にワクチン担当大臣となったことは悪い冗談のように思えた。一方で、「創薬力の強化は喫緊の課題であり、医薬品の研究開発費への大規模投資がいまこそ必要」と訴える政治家もいる。高市早苗政調会長である。国を守るとはどういうことか。日本の課題を徹底検証!


「こんな厳しい自転車操業はない」

理由は主に3つ。
①2021年に薬価が毎年改定となり、薬価切り下げがさらに加速。
②政府主導によるジェネリック医薬品推進策(2020年度のジェネリック医薬品数量シェアは速報値で79・4%)。
③先発医薬品のシェア減少で開発に回す資金が減少。

日本の医薬品市場は世界3位だが、国による医療費削減、薬価切り下げ、ジェネリック推進策によって、薄利多売を強いられる製薬会社には研究開発をする力が乏しい。

医薬品は特許で保護されている期間だけ、独占販売での高い収益をあげることができる。特許が切れれば、同じ効果のジェネリック医薬品が安価で販売される。

新薬を創る製薬会社は、莫大な研究開発費を投入した新薬が特許切れになる前に利益を生み、次の新薬を開発し続けなければならない。

2021年10月7日、IFPW(国際医薬品卸連盟)東京総会で塩野義製薬の手代木功社長が「こんな厳しい自転車操業はない」と述べたが、まさにそのとおりだろう。

日本の医薬品メーカー大手が生き残りをかけて、外資との合併共同出資や資本提携の動きを活発化しているのも、日本ではもはや収益を見込めないからだ。

中外製薬はロシュの子会社となり、万有製薬はメルクの子会社となって売り上げを伸ばしている。ワクチン開発中の塩野義製薬も2020年8月、中国の保険最大手である「中国平安保険集団」と合弁会社「平安塩野義有限公司」を上海に設立。

このままでは日本の研究成果や技術が外国、特に中国に取り込まれていくことになる。

微生物研究や単純な化合物の組み合わせによる創薬の時代は終わりつつある。現在はバイオテクノロジーやゲノム情報をベースにしており、その分、研究開発費は高くつく。

これまでの低分子医薬品の開発費用ですら200億円前後かかったが、バイオ医薬品では500億円から1000億円もの研究開発投資が必要と言われている。その開発費の高額化が、さらに製薬会社へ重い負担となってのしかかる。十分な研究開発費を出してくれる国に行きたい、と研究者が考えるのは当然だろう。

国による手厚いバックアップがない日本から、お金に糸目をつけず高レベル技術を誘致する国に技術と頭脳が流出し続けている。

オプジーボは国を滅ぼしたのか?

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2014年、京都大学名誉教授・本庶佑氏の研究で、画期的ながんの薬が開発された。がん細胞の持つ特殊なアンテナを無効化する薬「オプジーボ」だ。

オプジーボの製造販売元である小野薬品工業と本庶氏は特許使用料をめぐり争ってきたが、2021年11月12日、小野薬品が本庶氏に解決金として50億円、京都大学に設立される「小野薬品・本庶記念研究基金」に230億円を寄付することで和解が成立した。

がん細胞は表面に特殊なアンテナを伸ばす。そしてそのアンテナは、天敵であるはずの免疫細胞を逆に引きつけることで、免疫細胞を無力化する。本庶氏はこのアンテナを発見し、2018年、ノーベル医学・生理学賞を受賞した。

これまで作られた抗がん剤はがんを直接攻撃する薬だったが、オプジーボはがん細胞を体内の免疫機能で継続して攻撃し続けることを可能にした。がんに対してのこれまでの治療法は「手術」 「放射線療法」 「化学療法」の3つだったが、4番目の免疫療法が日本から生まれたのだ。

オプジーボは、発売当初は皮膚がん「悪性黒色腫」の治療薬として承認された。「悪性黒色腫」は患者数が少ない希少疾病だ。希少疾病治療薬は開発しても需要が少ないため、製薬会社にとっては利益が見込めない。

そのため、希少疾病治療薬は「オーファン(みなしご)ドラッグ」として特別の支援を受け、価格も高めに設定されることが多い。オプジーボは特別な「オーファンドラッグ」として、薬価の高い米国でまず承認された。

新薬は特許切れになるまでの限られた時間でその開発費を回収しなければ、メーカーは次の開発費が捻出できない。2014年の発売当初、オプジーボの価格が100ミリグラム約73万円と高額だったのは、新薬開発を厚労省が応援する意図もあったのだ。

しかし、2015年に肺がんにも保険適用が拡大されたことにより、「製薬企業ぼろもうけ」 「オプジーボが国を滅ぼす」などの批判が集まった。

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