新薬の未来を潰した、河野太郎の傲慢政治|小笠原理恵

新薬の未来を潰した、河野太郎の傲慢政治|小笠原理恵

「科学技術振興予算は今後、増えません」と断言し、画期的なオプジーボを叩いた河野太郎氏が、2021年1月にワクチン担当大臣となったことは悪い冗談のように思えた。一方で、「創薬力の強化は喫緊の課題であり、医薬品の研究開発費への大規模投資がいまこそ必要」と訴える政治家もいる。高市早苗政調会長である。国を守るとはどういうことか。日本の課題を徹底検証!


ワクチン開発競争、日本と米国の差

Getty logo

新薬開発費支援は大きな経済効果をもたらす。米国はワクチン開発のワープスピード計画で、およそ1兆円の支援をワクチン製薬メーカーに出したが、ファイザーとモデルナ両社の新型コロナウイルスワクチン売上高は、2026年までの合計で約11兆円となる予想となった。新たなオミクロン株にも両社の技術は迅速に対応できる。

もちろん、その効果は経済だけでなく、国際的な影響力も増大する。

9・11、炭疽菌テロを経験した米国は、未知の感染症から国民を守る新薬開発技術の維持を国家安全保障の重要な課題と位置付けた。そして、未知の疾病に対抗するワクチンや治療薬の開発支援組織「BARDA」(アメリカ生物医学先端研究開発局)を設立させた。

米バイオ企業のモデルナは、13年に国防総省傘下の「DARPA」(国防高等研究計画局)から約27億円、16年には前述の「BARDA」から約135億円の支援を受け、まだ芽の出なかったmRNAワクチンの技術・開発を続けていた。

この支援はファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ノババックス、メルク等にも行われており、mRNAだけでなくウイルスベクター等の技術開発・治療薬開発も手厚い支援を受けている。米国関連の製薬会社が、新型コロナ感染症の蔓延から1年弱でワクチンの実用化にこぎつけた理由はここにある。

さらに、このワクチン開発には軍事ロボット開発やインターネットの源となるサイバーネットワークを作った「DARPA」が、新型コロナウイルス抗体を90日以内で見つけ出したことも知っておきたい。

米国が未知のウイルスとの闘いを「国家安全保障上の問題」と考えていたことが、この点でも明らかである。この米国の医療安全保障組織が、全世界に重要な医薬品を提供した。

トランプ前大統領は自動車大手のGM(ゼネラル・モーターズ)に対して、人工呼吸器の製造を命じた。また、バイデン大統領はジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナウイルスのワクチンの増産のために、ライバル会社である米大手メルクに製造協力を命じた。

治療薬でも同様だ。米メルクが新型コロナ感染症に特化した経口薬、モルヌピラビルを開発。11月、同社公表データによると、この薬はオミクロン株に対しても入院や死亡を30%減少させる効果がある。

1950年の朝鮮戦争時にできた国防生産法により、大統領令で迅速に生産体制強化を行い、国民の命を救ったのだ。

治験寸前で日本政府は支援を打ち切った!

翻って、日本はどうだったか。

実は、国内でも東京大学がmRNAワクチンの研究開発を細々とはいえ行っていたのだ。2018年、そのmRNAワクチンが治験段階まできていた。だが、治験寸前で政府は支援を打ち切ったのだ。ファイザーやモデルナに先駆けて、日本がmRNAワクチン技術を手に入れるチャンスだったのに、残念である。

2021年4月5日の東京新聞に「当時、治験に進みたいと何度も訴えたが、予算を出してもらえなかった」と、東京大学医科学研究所・石井健教授の悲痛なコメントが掲載されている。研究開発費打ち切りで失った国益は計り知れない。

元自衛官で生物化学兵器テロの対処にかかわった医師は、次のように述べている。

「ある事象が起きたときの日本人の猛烈な頑張りは、世界一だと感じています。戦後の復興や3・11後の復興もそうでした。でも、なぜか喉元過ぎれば熱さを忘れてしまうのです。地下鉄サリン事件のときは、たまたま自衛隊医官が早期に『サリン』だと気がついて、被害を最小限に抑えることができました。

今回のコロナ禍では、たまたま海外のワクチンが短期間で開発されたので収まったのです。危機管理の世界では、『結果オーライ』は成功ではなくて大失敗とイコールです。そろそろ『備えあれば憂いなし』の国にしていかなければ、取り返しのつかないことになりそうな予感がしています。

現段階ではまだ、お金で解決できると思っていますが、残された時間は多くありません」

関連する投稿


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

衆院選が終わった。自民党は過半数を割る大敗で191議席となった。公明党も24議席となり連立与党でも215議席、与党系無所属議員を加えても221議席で、過半数の233議席に12議席も及ばなかった――。


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

9月27日、自民党新総裁に石破茂元幹事長が選出された。決選投票で高市早苗氏はなぜ逆転されたのか。小泉進次郎氏はなぜ党員票で「惨敗」したのか。石破新総裁〝誕生〟の舞台裏から、今後の展望までを記す。


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。