「第二の恒大集団」が続々―「死期」が迫っている
中国不動産情報サービスの克而瑞研究中心(CRIC)によると、中国の不動産デベロッパーの債券を対象とした2020年のデフォルト(債務不履行)は、9月27日までに総額467億5000万元(約8087億円)となり、前年同期の約2・6倍だった。 つまり、恒大集団によるデフォルトの可能性が世間の注目を集める前から、中国の不動産開発業界では債務の不履行がすでに一般的な現象となりつつあったのである。
10月になると、「第二の恒大集団」と噂される別の不動産開発業者の債務不履行問題も浮上する。深センを本拠地にして、高級集合住宅を手掛ける不動産開発会社「花様年控股集団」は四日、計3億1500万ドル(約350億円)の債務の支払いができなかった。
米国の代表的な企業格付け機関S&Pとムーディーズは、花様年の信用格付けを直ちに「デフォルト」に引き下げ、両機関はさらに、今回の元本不払いにより、花様年の残りの社債についても不履行になる可能性が高いとの見方を示している。
中国不動産開発業全体に対する市場の不信感はますます高まり、10月1日から7日までの国慶節の連休中には、カイサ・グループ(佳兆業集団)、セントラル・チャイナ(建業地産)、緑地控股集団などの不動産大手の社債が、不透明感を理由に次々と売られた。
10月8日、大型連休明けの証券市場は、国内不動産会社の社債と株式が軒並み急落。恒大集団と同様、全国の不動産開発業者には今後、「死期」が迫っている。
悪夢のような事態
不動産市場の冷え込みも深刻な状況だ。2020年1~8月、中国国内各金融機関の不動産業者への融資は前年同期比で6・1%減、全国で不動産業者による土地購買面積は前年同期比で10・2%減、着工面積は3・2%減を記録、不動産業者に対する金融規制の強化や不動産市場の冷え込みは明らかである。
2020年8月には、全国住宅販売面積は前年同期比で17・6%減というショッキングな数字が出るなど、不動産市場の冷え込みはより一層加速している。9月下旬、「中秋節」(9月19日~21日)を挟んで3連休は例年不動産の売れ行きが好評だが、2020年の販売実績は関係者の背筋を凍らせる結果となった。
北京市内住宅販売面積は前年同期比でなんと64%減、上海69%減、深49%減、蘇州75%減、福州81%減と、全国大中都市で平均7割も激減した。9月が過ぎるとやってくるのは前述の国慶節7連休であるが、例年ではこの大型連休こそ、不動産がよく売れる文字どおりの黄金週間である。
ところが、2020年の全国各都市の不動産販売成績は悲惨なものとなった。全国60都市で新規住宅の販売面積は187万平米で、前年同期比では43%も減少したという。そのなかでも上海の減少幅はもっとも激しく、88%減という驚くべき下げ幅を記録している(10月9日「克而瑞研究中心」)。
これは明らかに、「恒大危機」からショックを受けて投資家たちが一斉に不動産市場から手を引いたことを表している。このような状況が今後も続けば、不動産市場の冷え込みは極限にまで進む。不動産が徹底的に売れなくなると、恒大集団も含めて大量の負債を抱える国内の不動産開発業者たちは資金繰りがますます苦しくなり、デフォルトの危機に晒される。彼らは生きていくために、手元にある不動産在庫を値下げして売り捌くしかない。それが、不動産価格の急速な下落を招くのは必至だ。
不動産全体の価格が下落傾向に向かえば、投資用に2軒目・3軒目の不動産を買っていた全国のサラリーマンや公務員たちは、日々自分たちの財産が減っていくことを座視するだろうか。そうなれば、これまで不動産バブルを支えてきた彼らが一斉に物件を売り逃げることは十分に考えられる。それは間違いなく不動産価格の暴落を招き、不動産バブルの崩壊へとがる。
その際、中国政府は、たとえば「不動産売買禁止令」を出すなど不動産市場を凍結することによって不動産価格の暴落を止めることもできよう。だが、不動産市場の凍結はすなわち不動産市場の死を意味する。不動産市場の死は、直ちに中国のGDPの十数%を占めている不動産開発業の休眠、崩壊を意味する。
その波及効果を計算に入れると、不動産開発業は中国のGDPの30%近くを創出しているとも見られている。この超巨大産業が休眠、崩壊すれば、中国経済は直ちにその全体規模の数割を失うことになる。
それはまさに、一国の経済の地滑り的沈没と言ってよい。成長と繁栄の神話が一気に崩れるという悪夢のような事態を招く。習近平政権にとって眠れぬ夜が続いている。(月刊『Hanada』2021年12月号)
評論家。1962年、四川省生まれ。北京大学哲学部を卒業後、四川大学哲学部講師を経て、88年に来日。95年、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。2002年『なぜ中国人は日本人を憎むのか』(PHP研究所)刊行以来、日中・中国問題を中心とした評論活動に入る。07年に日本国籍を取得。08年拓殖大学客員教授に就任。14年『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞を受賞。著書に『韓民族こそ歴史の加害者である』(飛鳥新社)など多数。