岸田文雄氏の総裁選出が“理にかなっている”ワケ|八幡和郎

岸田文雄氏の総裁選出が“理にかなっている”ワケ|八幡和郎

注目を集めた自民党総裁選は、岸田文雄氏の勝利で決着がついた。 八幡和郎氏は以前から、岸田氏の外交力を高く評価。また、過去の寄稿で、河野太郎氏や高市早苗氏、野田聖子氏らを的確に分析している。改めて、2020年9月号の記事を掲載!


石破茂氏は国民を愚弄

中国やロシアとの関係も悪くない。韓国とは、朴槿惠の告げ口外交によく耐えて関係修復の筋道を得たが、文在寅がそれを壊した以上、しばらく甘い顔をしないのは適切だ。北朝鮮とは核と拉致の同時解決をめざす以上、アヒルの水かきをしつつチャンスを待つしかない。
 
ただ、この成功は安倍首相個人の卓越した能力で実現されたもので、新政権になったときに維持するためには、後継首相がリーダー同士の信頼関係を築けるセンスと、些細な国内事情のために大きな国益を犠牲にしない姿勢をもつ必要がある。
 
おそらく安倍首相は、憲法改正の国民投票のときに首相でいるつもりはないと思うし、そのほうがいいと思う。憲法改正を「戦後レジームからの脱却の是非」という大上段の命題を問う形で国民に問うことは、無用な反発を内外から誘発するだけで、首相が戦後体制の評価について中立的な姿勢であることこそ、鍵を握るとみられる公明党支持者の賛同を得るためにも有利だ。
 
そして、それにプラスして新首相に望まれるのは、目玉政策である。安倍内閣のもとで経済社会改革は一定の成果は上げたものの十分ではないし、国民も夢を求めている。たとえば、池田内閣の「所得倍増」とか田中内閣の「列島改造」、あるいは大平首相の「田園都市国家構想」に類するようなものだ。拙著、

『日本人がコロナ戦争の勝者となる条件』(ワニブックス)にも書いたが、新型コロナ対策からの復興でも「禍転じて福と為す」ような発想がほしい時代だ。
 
与党の支持率が野党のそれと比べて低い状況であれば、党内で安倍内閣に厳しく反対してきた者の後継総裁もありうる。田中角栄の後継には、椎名裁定で三木武夫が選ばれた。
 
しかし、いま与党への国民の信頼は揺るぎないものである。それなら、石破氏のようにほぼ一貫して党内野党に徹し、平時ならともかく国政選挙や都議会議員選挙のような戦時にあってすら味方を背後から狙撃し続けた政治家が、後継者に相応しいはずがない。
 
それでは、安倍首相の路線を支持してきた国民の多数派は行き場所を失ってしまう。また、石破氏が改憲否定派ではないにせよ、安倍内閣の八年間で積み上げてきた方向性を一度ご破算にするようなコメントをしがちなのも、国民を愚弄している。
 
しかし、石破氏について最大の懸念材料は、外交軽視である。石破氏は、安倍政権下でも幹事長と地域創生相しかしなかった。それならせめて、自ら外遊を繰り返すべきだ。与党の有力者なら世界各国で相当レベルの人に会えるし、ダボス会議のようなところでスピーチさせてもらうのも容易なのだ。
 
ところが、石破氏はそういう機会をほとんど持とうとしなかったし、英語で話す努力もしていない。安倍首相のブエノスアイレスでのIOC総会や米国議会での英語スピーチでの成功はかなり意味を持っていただけに、意識が低すぎる。

杉村太蔵氏に喝破される石破茂氏

それでも、石破氏が総裁選挙に立候補すれば、一般党員投票で勝利する可能性はある。地方議会の選挙の応援に精を出したのを評価する地方議員や首長も多いからである。
 
それならば、石破氏に地方振興について「列島改造」に匹敵する知恵があるのかといえばない。隙間狙い的に活路を見出せばチャンスがあるという「里山資本主義」だけだ。
 
たしかに、個々の地域、とくに中山間地域などで少し気の利いたコンサルでも雇えば成功する。しかし全体のパイは大きくないので、地方の衰退という国家全体の課題への回答にはならないし、だからこそ、地方創生相になっても期待に応えられなかったのである。
 
最近もテレビ番組で杉村太蔵氏と議論して、「百年前のスペイン風邪の時と同じように、グローバル経済から脱却すべき。そして、東京一極集中からの脱却」と謎の発言をして話題になった。ブロック経済に流れてそれが世界恐慌につながっていったのだが、それを再現したいのか。
 
番組では杉村氏にまで、「石破さんの支持が上がらないのはマクロ経済政策。ブログ見たけど、どっかの夕刊コラムみたい。全然政策のこと書いてない」と喝破される始末だった。
 
それでは、小川氏が推す菅義偉官房長官はどうか。私は、官房長官からそのまま総理にというのは好ましくないと思う。第二次安倍内閣発足以来、女房役として安倍首相と一心同体であり、そのまま総理になったのでは清新さもないし、ある意味で尻拭いを引き受けてきたのだから、モリカケや官界の不祥事などすべてを引き継いでしまうことになる。
 
安倍首相も、小泉内閣の官房長官からそのまま横滑りしたことが良くなかった。また、霞が関は菅官房長官が人事権を8年も握ってきたことの息苦しさも強く感じている。最大の不安要因は外交で、経済産業相のような対外交渉も経験できるポストを経由したほうがいいと思う。

関連する投稿


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

9月27日、自民党新総裁に石破茂元幹事長が選出された。決選投票で高市早苗氏はなぜ逆転されたのか。小泉進次郎氏はなぜ党員票で「惨敗」したのか。石破新総裁〝誕生〟の舞台裏から、今後の展望までを記す。


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


青山繁晴さんの推薦人確保、あと「もう一息」だった|和田政宗

青山繁晴さんの推薦人確保、あと「もう一息」だった|和田政宗

8月23日、青山繁晴さんは総裁選に向けた記者会見を行った。最初に立候補を表明した小林鷹之さんに次ぐ2番目の表明だったが、想定外のことが起きた。NHKなど主要メディアのいくつかが、立候補表明者として青山さんを扱わなかったのである――。(サムネイルは「青山繁晴チャンネル・ぼくらの国会」より)


総裁選候補に緊急アンケート15問|野田聖子議員

総裁選候補に緊急アンケート15問|野田聖子議員

混戦となっている自民党総裁選。候補者たちに緊急アンケートを実施し、一人ひとりの実像に迫る!


最新の投稿


【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「ゴジラフェス」!


【読書亡羊】闇に紛れるその姿を見たことがあるか  増田隆一『ハクビシンの不思議』(東京大学出版会)

【読書亡羊】闇に紛れるその姿を見たことがあるか 増田隆一『ハクビシンの不思議』(東京大学出版会)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

衆院選で与党が過半数を割り込んだことによって、常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した――。このような厳しい状況のなか、自民党はいま何をすべきなのか。(写真提供/産経新聞社)


【今週のサンモニ】オールドメディアの象徴的存在|藤原かずえ

【今週のサンモニ】オールドメディアの象徴的存在|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。