岸田文雄氏の総裁選出が“理にかなっている”ワケ|八幡和郎

岸田文雄氏の総裁選出が“理にかなっている”ワケ|八幡和郎

注目を集めた自民党総裁選は、岸田文雄氏の勝利で決着がついた。 八幡和郎氏は以前から、岸田氏の外交力を高く評価。また、過去の寄稿で、河野太郎氏や高市早苗氏、野田聖子氏らを的確に分析している。改めて、2020年9月号の記事を掲載!


岸田文雄氏の外交成果

さて、それでは、誰がどのようなシナリオでポスト安倍の重責を担えるかというと、安倍首相が岸田文雄氏に期待を寄せるのは理に適っている。
 
なぜなら、なにより5年間にわたって外相として安倍外交を支えた成果は極上だった。なにしろ、外相は激務で2年間やったら早死にする人が多いと言われるくらいだ。それを五年間も元気に務められたというだけでも、素晴らしいことだ。
 
ロシアのラブロフ外相とウォツカを呷りながら議論したそうだし、語学堪能とまでは言わないが、通産官僚だった父親の仕事でニューヨークで小学生時代を送り、発音などは結構良いとプロの通訳も誉める。
 
宏池会というリベラルな基盤をもち、憲法改正とか軍事協力でもタカ派的な警戒心を内外に惹起する危惧が少ないから、憲法改正を世に問う総理総裁として適任である。
 
問題は支持率が上がらないことだ。誰でも納得するような最大公約数的な枠組みから飛び出そうとしないからである。安倍首相も無難なことばかりいっているわけではない。

石破氏ほど捻くれても困るが、尖った意見を主張して賛同を得ることもしないと、政治家としての勇気が感じられない。魅力的な政策を打ち出せないなら、首相になっても人気は出ないのではないのか。
 
国民の良識に期待して丁寧に説得を試みるというが、それでは本当に大事な改革はできない。宏池会の先輩の大平首相が、一般消費税の導入の提唱やモスクワ五輪不参加を決めたときに、賛同者などごく僅かだった。

それを岸田氏は避けるから印象に残らないのである。さきのコロナ対策でも、収入が低下する家庭に傾斜した対策を主張するなら、反発覚悟で国民に訴えるべきだった。
 
参議院選挙で秋田、山形、滋賀で自派候補を落とし、広島では本来なら2人当選を目指して汗をかくべきだったのを、二人目の候補である河井案里氏に最低限の協力すらしなかったのが、あの事件の根底にはある。

メッキが剥がれた小泉進次郎氏

そこで、ひとつの提案をすれば、次の改造で岸田氏を官房長官にして、菅氏を先に書いたように経済閣僚にすることだ。岸田氏のスマートな応対と、首相の女房役というよりは独立した政治家としての感覚は、政権に対するイメージの変化をもたらすだろう。
 
また、望月衣塑子や江川紹子といった記者、ジャーナリストに鍛えられるのも悪い経験でもあるまい。そのことで、岸田・菅両氏が一皮ければ、安倍首相は安心できる後継者候補を二人もてることになる。
 
外交については、岸田氏と並ぶ資格があるのは茂木敏充外相だ。これまでもTPP交渉などで練達の交渉能力を発揮してきたし、ハーバード大学留学、マッキンゼー勤務だから語学力も抜群だ。

国内政策についても、1980年代に東京一極集中が問題になっていたころ、『都会の不満 地方の不安』という素晴らしい著書も書いていた。その現代版をしっかりつくれば、政策では岸田氏の及ぶところではなくなるだろう。
 
あとは、国民に対する露出の仕方と、党内の信頼を重要ポストを歴任するなかで固めていくことだろう。最近、茂木さんは腰が低くなったという評判はとてもうれしい。
 
河野太郎防衛相は、語学力はジョージタウン大学卒業だけあってネイティブ水準だし、外交問題についての見識は申し分ないのだが、相手方を過度に論破したり、批判するのは外相、あるいは首相としては好ましい態度とは思えない。
 
昔から外交術として、ソフトに好感を与えることを旨とするのが常識だし、安倍首相なども外国首脳に恥などかかさないから、世界外交の場で信頼を勝ち得ているのだ。また、原発問題が典型だが、たとえば安倍後継ということなら、突出した意見は邪魔にしかなるまい。
 
小泉進次郎環境相は、滝川クリステルとの結婚も人気上昇にはつながらず、一時期のポスト安倍の有力候補としてのメッキは剥がれた感があるが、それは本人にとっても良かった。プリンスとしての人気だけで、十分な経験なしにトップに座っていいことなどない。環境相という経験は適切だと思うが、難しいポストを経験するなかで成長していくだろう。
 
頭脳の回転もいいし、演説は上手だし、英語も会話、演説ともに一級品だから、期待の星であることに間違いはない。
 
ただ、父親が健在で、生臭さが消えないのはマイナスだ。石原慎太郎氏が子供たちにとってマイナスにならないように動くのに対し、父親として純一郎元首相は未熟だと思うし、進次郎氏も河野太郎氏のような上手な親離れが必要だ。

関連する投稿


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


憲法改正の国会発議はいつでもできる、岸田総理ご決断を!|和田政宗

憲法改正の国会発議はいつでもできる、岸田総理ご決断を!|和田政宗

すでに衆院の憲法審査会では4党1会派の計5会派が、いま行うべき憲法改正の内容について一致している。現在いつでも具体的な条文作業に入れる状況であり、岸田総理が決断すれば一気に進む。


6月10日施行の改正入管法で一体、何が変わるのか?|和田政宗

6月10日施行の改正入管法で一体、何が変わるのか?|和田政宗

不法滞在者や不法就労者をなくす私の取り組みに対し、SNSをはじめ様々な妨害があった――。だが、改正入管法施行の6月10日以降、誰が正しいことを言っているのか明らかになっていくであろう。(写真提供/時事)


衆院3補選「3つ勝たれて、3つ失った」自民党の行く末|和田政宗

衆院3補選「3つ勝たれて、3つ失った」自民党の行く末|和田政宗

4月28日に投開票された衆院3補選は、いずれも立憲民主党公認候補が勝利した。自民党は2選挙区で候補者擁立を見送り、立憲との一騎打ちとなった島根1区でも敗れた。今回はこの3補選を分析し、自民党はどのように体勢を立て直すべきかを考えたい。(サムネイルは錦織功政氏Xより)


「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

チマチマした少子化対策では、我が国の人口は将来半減する。1子あたり1000万円給付といった思い切った多子化政策を実現し、最低でも8000万人台の人口規模を維持せよ!(サムネイルは首相官邸HPより)


最新の投稿


【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】暴力を正当化し国民を分断する病的な番組|藤原かずえ

【今週のサンモニ】暴力を正当化し国民を分断する病的な番組|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


正常脳を切除、禁忌の処置で死亡!京都第一赤十字病院医療事故隠蔽事件 「12人死亡」の新事実|長谷川学

正常脳を切除、禁忌の処置で死亡!京都第一赤十字病院医療事故隠蔽事件 「12人死亡」の新事実|長谷川学

正常脳を切除、禁忌の処置で死亡――なぜ耳を疑う医療事故が相次いで起きているのか。その実態から浮かびあがってきた驚くべき杜撰さと隠蔽体質。ジャーナリストの長谷川学氏が執念の取材で事件の真相を暴く。いま「白い巨塔」で何が起きているのか。


トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

7月13日、トランプ前大統領の暗殺未遂事件が起きた。一昨年の安倍晋三元総理暗殺事件のときもそうだったが、政治家の命を軽視するような発言が日本社会において相次いでいる――。


【今週のサンモニ】テロよりもトランプを警戒する「サンモニ」|藤原かずえ

【今週のサンモニ】テロよりもトランプを警戒する「サンモニ」|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。