岸田文雄氏の外交成果
さて、それでは、誰がどのようなシナリオでポスト安倍の重責を担えるかというと、安倍首相が岸田文雄氏に期待を寄せるのは理に適っている。
なぜなら、なにより5年間にわたって外相として安倍外交を支えた成果は極上だった。なにしろ、外相は激務で2年間やったら早死にする人が多いと言われるくらいだ。それを五年間も元気に務められたというだけでも、素晴らしいことだ。
ロシアのラブロフ外相とウォツカを呷りながら議論したそうだし、語学堪能とまでは言わないが、通産官僚だった父親の仕事でニューヨークで小学生時代を送り、発音などは結構良いとプロの通訳も誉める。
宏池会というリベラルな基盤をもち、憲法改正とか軍事協力でもタカ派的な警戒心を内外に惹起する危惧が少ないから、憲法改正を世に問う総理総裁として適任である。
問題は支持率が上がらないことだ。誰でも納得するような最大公約数的な枠組みから飛び出そうとしないからである。安倍首相も無難なことばかりいっているわけではない。
石破氏ほど捻くれても困るが、尖った意見を主張して賛同を得ることもしないと、政治家としての勇気が感じられない。魅力的な政策を打ち出せないなら、首相になっても人気は出ないのではないのか。
国民の良識に期待して丁寧に説得を試みるというが、それでは本当に大事な改革はできない。宏池会の先輩の大平首相が、一般消費税の導入の提唱やモスクワ五輪不参加を決めたときに、賛同者などごく僅かだった。
それを岸田氏は避けるから印象に残らないのである。さきのコロナ対策でも、収入が低下する家庭に傾斜した対策を主張するなら、反発覚悟で国民に訴えるべきだった。
参議院選挙で秋田、山形、滋賀で自派候補を落とし、広島では本来なら2人当選を目指して汗をかくべきだったのを、二人目の候補である河井案里氏に最低限の協力すらしなかったのが、あの事件の根底にはある。
メッキが剥がれた小泉進次郎氏
そこで、ひとつの提案をすれば、次の改造で岸田氏を官房長官にして、菅氏を先に書いたように経済閣僚にすることだ。岸田氏のスマートな応対と、首相の女房役というよりは独立した政治家としての感覚は、政権に対するイメージの変化をもたらすだろう。
また、望月衣塑子や江川紹子といった記者、ジャーナリストに鍛えられるのも悪い経験でもあるまい。そのことで、岸田・菅両氏が一皮ければ、安倍首相は安心できる後継者候補を二人もてることになる。
外交については、岸田氏と並ぶ資格があるのは茂木敏充外相だ。これまでもTPP交渉などで練達の交渉能力を発揮してきたし、ハーバード大学留学、マッキンゼー勤務だから語学力も抜群だ。
国内政策についても、1980年代に東京一極集中が問題になっていたころ、『都会の不満 地方の不安』という素晴らしい著書も書いていた。その現代版をしっかりつくれば、政策では岸田氏の及ぶところではなくなるだろう。
あとは、国民に対する露出の仕方と、党内の信頼を重要ポストを歴任するなかで固めていくことだろう。最近、茂木さんは腰が低くなったという評判はとてもうれしい。
河野太郎防衛相は、語学力はジョージタウン大学卒業だけあってネイティブ水準だし、外交問題についての見識は申し分ないのだが、相手方を過度に論破したり、批判するのは外相、あるいは首相としては好ましい態度とは思えない。
昔から外交術として、ソフトに好感を与えることを旨とするのが常識だし、安倍首相なども外国首脳に恥などかかさないから、世界外交の場で信頼を勝ち得ているのだ。また、原発問題が典型だが、たとえば安倍後継ということなら、突出した意見は邪魔にしかなるまい。
小泉進次郎環境相は、滝川クリステルとの結婚も人気上昇にはつながらず、一時期のポスト安倍の有力候補としてのメッキは剥がれた感があるが、それは本人にとっても良かった。プリンスとしての人気だけで、十分な経験なしにトップに座っていいことなどない。環境相という経験は適切だと思うが、難しいポストを経験するなかで成長していくだろう。
頭脳の回転もいいし、演説は上手だし、英語も会話、演説ともに一級品だから、期待の星であることに間違いはない。
ただ、父親が健在で、生臭さが消えないのはマイナスだ。石原慎太郎氏が子供たちにとってマイナスにならないように動くのに対し、父親として純一郎元首相は未熟だと思うし、進次郎氏も河野太郎氏のような上手な親離れが必要だ。