なりすまし党員問題
以上は個々の政治家の品定めだが、交代のタイミングはいつがいいのか。任期満了なら、2021年9月下旬で自民党総裁は交代だ。また、衆議院も2021年10月に任期満了であるので、自民党に新総裁が誕生してすぐに総選挙が行われることになる。
しかし、そもそも安倍総裁が任期満了前に辞任すれば党員投票でなく国会議員の投票で新総裁を決められるので、一般党員投票での得票は関係なくなる。さらに、新型コロナや東京五輪の状況次第では、安倍総裁の任期を1年延ばすことも一案だ。
シナリオとしては、たとえば2020年の秋に解散すれば、自民党はいまより議席を減らすかもしれないが、負けることはない。そこで信任を得たとして任期延長や四選可能なように党則を改定することも、任期満了前に辞任してバトンタッチすることも大義名分に事欠かない。
今度は逆に、安倍総裁が辞任して新総裁を選び、その勢いで総選挙というのもある。ただ、いずれの場合にも、一般党員投票で石破氏がトップになると厄介である。朝日新聞などリベラル系マスコミは、世論調査などを盾に石破氏を全力で支援するだろうから、自民支持層での石破氏の支持は低調だとか言っても危ない。
さらに日本の場合は、よその党の支持者とか、工作員がかなり登録している可能性も強い。このところ、世界的にもなりすまし党員の問題は深刻になってきている。
2016年の民進党代表選挙は、私が蓮舫氏の二重国籍問題を追及しているなかで行われた。党員投票の締め切りを待って二重国籍を事実上認めたのだが、大差で一位だったので議員投票で覆る見込みがなかったことを背景に反対派を諦めさせて当選し、二重国籍公表後に信任を得たといって開き直った。
それを考えると、一般党員投票で石破氏に勝つか、あるいは僅差で二位になる候補であることは、絶対要件ではないが大事なことだ。
「安倍ロス現象」の懸念
安倍首相は来年の任期いっぱい務めたとしても、9年間(第一次内閣を入れて10年)である。
国際的に見て四選も非常識とはいえない。アメリカは憲法で原則として二期8年になっているが、半数以上の大統領が二期務めている。フランスは7年が5年に短縮されたが、だいたい再選されている。
ドイツは戦後70年でまだ8人目だ。中国は10年が原則で、習近平はさらにそれを延長しようとしている。世界のそこそこ優れた指導者は10年くらいが普通なのであって、55年体制で二年ごとに政権を替えさせて、自分がいくつの内閣を潰したとか自慢している評論家は、いかに日本の政治を悪くしてきたか猛省すべきである。
もうひとつ懸念されるのは、次期首相・総裁は安倍政権に比べて、物足りない印象を与えるだろうから、「安倍ロス現象」が予想されることだ。小泉退陣後の自民党で、安倍、福田、麻生と3人が1年ずつで倒れることになったのは、小泉劇場型政治の印象が強すぎて、常識人であるほかの総理たちの仕事が物足りなく見えたのが主因だと思う。
議会政治の本場であるイギリスでも、サッチャーやブレアといった十年以上在任した首相の後任はこの現象に悩まされて、野党に政権を譲ることになった。それを防ぐために私が提案したいのは、短期の総総分離である。普通、総総分離といわれるのは総理と総裁を別の人がやることで、実現したことはないが、アイデアとしては常にある。
私が提案したいのは、安倍首相は四選を目指さないが、総理の座を譲るのは、3年間の総裁任期のうち半ばに達する前の適切なタイミングまで待つということだ。たとえば、トランプ大統領が再選されたようなときは、信頼関係が強固な安倍首相にもう少しやってほしいということはおおいにありうるだろう。
実はこの方式は、あちこちの国でやっているのである。たとえば、習近平は党主席になった次の年に国家主席になった。メルケル首相は、与党CDUの総裁をクランプ=カレンバウアー国防相に譲って次期首相を約束した(新総裁が不評で後継者は選び直すらしいが、その後継者が次期首相の予定)。
こういうやり方をしたら、石破氏に一般党員投票で負けるという懸念も減るし、また、次期首相が自民党総裁兼副首相としてしばらく安倍首相と併走すればかなり安心だ。後任首相の選択肢も拡がるのではないかと思う。
(初出:月刊『Hanada』2020年9月号)
1951年滋賀県大津市生まれ。東京大学法学部を卒業後、通商産業省に入省。 ENA(フランス国立行政学院)留学。 国土庁長官官房参事官、通商産業省大臣官房情報管理課長 などを経て、評論家、テレビコメンテーター、作家として活躍。 現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授。 著者に、『歴代総理の通信簿』(PHP新書)、『「反安倍」という病 - 拝啓、アベノセイダーズの皆様』 、『「立憲民主党」「朝日新聞」という名の偽リベラル』(以上ワニブックス)『中国と日本がわかる最強の中国史』 (扶桑社新書)など多数。