「ゼロコロナ」の悲劇 緊急事態宣言はもう必要ない|木村盛世

「ゼロコロナ」の悲劇 緊急事態宣言はもう必要ない|木村盛世

毎日報道される新規感染者数にいったいどれほどの意味があるのか? 病気は新型コロナウイルスだけなのか? 客観的データとファクトで明らかにする新型コロナウイルスの真実。


政府には、五輪を開くこと、開かないことに対して、そのメリットとデメリットを整理して国民に伝えてほしい。五輪開催のデメリット(感染が広がる、医療がひっ迫するなど)に関しては報道で取り上げられることが多いが、開催することのメリットに関しては伝わってこない。  

たとえば、開催しないと数兆円規模の負担が国民にのしかかるのであれば、政府はその事実を伝えてほしい。IOC(国際オリンピック委員会)が開催しないことで日本を訴えるとの声も聞かれるが、新型コロナウイルスという不可抗力のなかで、はたして訴えることができるのか、国際弁護士などの見解も含めて国民は知りたいのではないか。  

独立行政法人経済産業研究所(RIETI)の関沢洋一上席研究員が興味深い研究結果を発表した。RIETIは、2020年10月から三度にわたって、東京五輪に関するインターネットでのアンケート調査を行っている。  

下の質問内容と結果(グラフ3)を御覧いただきたい。 〈分析結果を簡略化して述べると以下の通りである。

・延期(対開催)と中止(対開催)のいずれの予想でも男女間では明確な差がない。
・65歳以上に比べて、30~65歳未満は、中止と予想する割合が少ない。
・預貯金額が1000万円以上の人々に比べて預貯金額が少ない人々は延期されると予想する割合が大きい。世帯収入の違いによる明確な差はない。
・TVよりもインターネット検索やニュース系アプリを新型コロナウイルスの情報源として最重視する人々の方が中止と予想する割合が大きい。
・新型コロナウイルスへの恐怖がある人々は、延期や中止と予想する割合が大きい。
・東京都や首都圏に住む人々に比べて、他の地域の居住者は、延期や中止と予想する割合が小さい傾向がある(例外は近畿、北陸、北海道)〉 (関沢洋一氏「どのような人々が東京オリンピックが2021年夏に開催されないと予想しているか?」より)  

考察のなかで、関沢氏は以下のように述べている。 「印象論かもしれないが、国・地方公共団体・マスメディアは、これまで新型コロナウイルスが恐ろしいものであるという説明を国民に対してすることが多かったように思う。このことは、新型コロナウイルスへの恐怖心の高まりを通じて、人々が感染防止に向けた行動を行う誘因になったかもしれないが、同時に、東京五輪に対する人々の悲観的な予想につながったように見える。  

過去の研究によれば、一般的信頼度は安定的なもので、こちらは簡単には変わらないとされる。東京五輪を円滑に開催するためには、多くの人々が抱く新型コロナウイルスへの恐怖心を和らげる何らかの対応が今後必要かもしれない」  

この結語は極めて重要なことを示唆している。すなわち、五輪開催には新型コロナウイルスに対する不安を取り除くことが重要だということだ。この意見に、筆者は全く同感である。長引く自粛により、「コロナ鬱」という言葉も聞かれるほど、人の心は疲弊している。

「病気は新型コロナしかない」

特に昨今のワイドショーなどでは毎日、新型コロナウイルス感染症の感染者数が繰り返し報道され、その増減に一喜一憂している人も多いのではなかろうか。また、変異株に関しても、20代の若い世代が死亡したことに関して大きく取り上げられる。まさに、「病気は新型コロナしかない」といわんばかりだ。  

しかし客観的に見れば、日本では年間130万人以上が死亡しており、季節性インフルエンザでは、関連死を含めると1万人程度の死亡者数がある。  

新型コロナウイルスをゼロに近づける(ゼロコロナ)というのが、現在の厚生労働省、分科会、日本医師会、立憲民主党の方向性である。  

たとえば、日本医師会がめざす東京都の感染者数1日100人以下というのは、13万人のうち1人しか風邪にかかってはいけないということと同義である。このような指標は無茶である。  

先日、小学五年生が持久走の際、マスクをつけていて死亡するという痛ましい事件が起きた。流行当初から、WHOは運動時のマスク着用を禁止している。新型コロナウイルス感染症を抑えることばかりに目を奪われると、新型コロナウイルス感染症以上の悲劇が起こることになってしまう。  

新型コロナの感染者だけを低く抑えればすべてが幸せになる、という幻影は極めて危険である。人の動きを止め続ければ、新型コロナウイルスの感染者数はゼロに近づいてゆくかもしれないが、その代償として、人の幸福、社会活動をすべて犠牲にしなければならない。

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