2011年の東京電力福島第一原発事故当時、日本に原発は50基あったが、今までに再稼働したのは今回の美浜原発3号機を含めて10基にとどまる。過去10年間、原発が実質的に停止していた影響は甚大だ。電力料金の値上がりで太陽光パネルのシェアは中国に奪われた。世界の原発建設を主導していた日本の3大メーカー(日立製作所、東芝、三菱重工)が輸出していた原発や火力発電設備は、電炉を使って製造している大型鋼鉄部材の価格が高騰したため、競争力を失い輸出が停止した。電気自動車の販売台数も中国と欧州に大きく引き離された。
安定した安価な電力こそが産業の原動力だ。再生可能エネルギーの不安定で高価な電源では、国際競争に負ける。今や圧倒的な資源と工場の製造能力を身につけた中国に負けないため、そして2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%減らすとした日本政府の目標達成のため、原発の再稼働と40年超え運転、さらに新増設・リプレース(建て替え)がどうしても必要である。ウクライナのように産業を壊滅させないためには、再エネ至上主義政策を見直すべきだ。(2021.06.28国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
国基研理事、東京工業大特任教授。1952年、東京都生まれ。東京工業大理工学研究科原子核工学修士課程修了。専門は原子炉工学。東芝に入社し原子力の安全性に関する研究に従事。同社電力・産業システム技術開発センター主幹などを務め、2007年に北海道大大学院教授に就任。同大大学院名誉教授・特任教授を経て現職。