北朝鮮への対処でも米韓両国は微妙な立場の違いをみせた。共同声明で文大統領は米国の新しい北朝鮮政策への支持を表明したが、その政策について「北朝鮮との外交に開かれており、それを模索する取り組み」と記して、米朝会談の進展を渇望する立場を隠さなかった。また、米韓両国は北朝鮮の人権状況の改善に協力するとしたが、そのすぐ後ろで人道支援を促進することも約束した。文政権は人道支援一辺倒で、北朝鮮が嫌う外部情報流入は促進するどころか取り締まりの対象にしている。
米韓共同声明は、北朝鮮と国際社会が安保理決議を完全に履行することを求めた。これは制裁の維持を意味するが、文政権は人道支援について制裁の対象ではないと強弁してきたから、制裁を緩めようとしている姿勢は変わらない。
文大統領は、中国という全体主義勢力との対決を避け、北朝鮮への融和を重視する姿勢を維持した。中国は日米首脳会談にはすぐに強く反発したが、米韓首脳会談には批判の声を上げていない。文政権の韓国は価値観外交のパートナーではない。(2021.05.24国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
モラロジー研究所教授、麗澤大学客員教授。1956年、東京生まれ。国際基督教大学卒業。筑波大学大学院地域研究科修了(国際学修士)。韓国・延世大学国際学科留学。82〜84年、外務省専門調査員として在韓日本大使館勤務。90〜02年、月刊『現代コリア』編集長。05年、正論大賞受賞。17年3月末まで、東京基督教大学教授。同4月から、麗澤大学客員教授・モラロジー研究所「歴史研究室」室長。著書に『でっちあげの徴用工問題 』など多数。