こうした「戦狼外交」は、欧米各国の反発のみならず、各国国民における中国への警戒感を強める結果にがっている。昨年10月に発表された米世論調査機関ピュー・リサーチセンターの調査によれば、主要先進国の対中世論は過去1年間で軒並み悪化し、12カ国中9カ国で過去最低を記録。習近平主席に対する評価も10カ国で過去最低となった。
特に、過去1年で中国に対する否定的な見方が急上昇したのは、豪州(+24%)、英国(+19%)、ドイツ、スウェーデン、オランダ(いずれも+15%)、米国(+13%)などとなっている。中国への反発や警戒感について、「戦狼外交」は火に油を注いでいる状態である。
この世論調査に対して、中国外務省の華春瑩報道官は、「この世論調査は西側諸国の中国に対する認識しか代表しておらず、国際社会の普遍的観点を代表していない。米国の政治家は中国について虚偽の情報をばら撒いており、米国など西側諸国の民衆は中国についての事実や真相を理解するうえで大きく誤った方向に導かれている」と反論した。
この華報道官の反論は中国の対外宣伝工作の方向性を示しており、欧米については反発を招いても強い姿勢を示し、中国は「西側諸国」以外への働きかけで国際世論の支持を得ようと考えているとみられる。
戦狼外交の、その先
それは、新型コロナウイルスの中国製ワクチンを用いた援助外交にみることができる。昨年6月には習主席が「アフリカ諸国に優先的に供与する」と表明、8月にはメコン川流域国へ優先的に提供することも表明した。こうして、中国は今年1月末現在で、アフリカや東南アジアなど26カ国にワクチンを提供。トルコやインドネシアでは大統領が中国製ワクチンの接種を行い、国営新華社通信により、中国国内のみならず世界に向け大々的に報道された。こうした中国の対外宣伝工作の二極化も注視していかなくてはならない。
そして、習主席は「戦狼外交」での権力集中と支持基盤強化の先に何を考えているのか。それは2022年の国家主席3期目突入以後、2027年以降も国家主席であり続けるための盤石の体制を作り上げるため、軍事強国としての成果を上げることにあると考える。
その動きは、昨年来の中国の法改正によるさらなる習近平国家主席への権力集中と軍事体制整備に見ることができる。 「中国国防法」改正では、習主席の思想に基づき軍事力を強化することが書き加えられた。改正国防法第4条は、過去の中国指導者の名前とともに、「国防活動は、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想による指導を堅持し、習近平の強軍思想、総体的国家安全観及び新時代の軍事戦略方針を貫徹し、中国の国際的地位、国家の安全及び発展利益に相応な、強固な国防と強大な軍事力を建設する」と定めた。
これに加え、尖閣諸島や南シナ海での武器使用を目論む「中国海警法」が今年制定され、施行された。
中国海警法22条は、「国家の主権、主権的権利及び管轄権が、海上において外国組織及び個人の違法な侵害を受ける又は違法な侵害を受ける緊迫した危機に直面する場合、海警機構は本法及びその他の関連する法律・法規に基づき、武器使用を含む全ての必要な措置を講じ、現場における侵害を制止し、危険を排除する権限を有する」と、中国海警局の武器使用権限を明示した。
この海警法の施行はどのような中国の行動をもたらすか。 中国が自国領土だと主張している尖閣諸島において、中国海警局が武器使用できることが中国の法律上担保されたのである。中国海警局は2018年、人民武装警察下に編入され軍と一体化しており、軍事侵攻の尖兵として中国海警局が尖閣へ電撃侵攻することをわが国は警戒し、断固として阻止しなければならない。