「習近平外交思想研究センター」を設立
このように戦狼外交が強まった発端は、習主席が2019年9月に中国共産党中央党校青壮年幹部研修班開講式で行ったスピーチにあるとみられる。このスピーチにおいて習主席は、「我々は改革・発展・安定、内政・外交・国防、党運営、国家運営、軍運営の全てに『闘争精神』を発揚し、『闘争能力』を高めることが必要」と述べた。
そして、習主席の強い外交姿勢を国家全体に反映させるため、「習近平外交思想研究センター」が昨年7月、北京に設立された。
国営新華社通信によれば、「全国の研究資源を統括し、習近平外交思想の研究、詳説、宣伝普及を全面的、系統的に深く進め、習近平外交思想について根源的、理論的、実践的、波及的、政策的、専門的研究を行い、外交実践に対する指導的役割を発揮」することが目的だとしている。
さらに、昨年11月には前外相である楊潔チ中国共産党中央政治局委員兼党中央外事工作委員会弁公室主任が「レッドライン思考、『闘争精神』を保持し、『闘争能力』を増強し、国家利益を有効に守らなければならない」と人民日報に寄稿し、習主席の前年の発言を改めて引用し、国民に呼びかけた。
この「闘争精神の発揚」 「闘争能力を高める」ことによって国民の支持を向上させることが戦狼外交の主目的であり、昨年以来、中国発で蔓延した新型コロナウイルス感染症についても対外宣伝工作を強化している。
中国国内の新型コロナ対策への不満や不安をそらすためにも重要であり、習主席が出席して開かれた昨年2月末の中国共産党中央政治局常務委員会では、「対外宣伝・説明」を強化することが明示された。
この指示に基づき、世界各国で駐在大使などが宣伝工作を行ったが、「戦狼外交」は中国国内で好評である一方、欧米各国における中国への反発を強める結果となった。
世界各国で行われている
まず、米国に対しては趙立堅外務省報道官が昨年3月、ツイッターで、「米軍が新型コロナの感染を武漢に持ち込んだのかもしれない」と発信し、米国の反発を招いた。
フランスにおいては、昨年4月に在仏中国大使館がホームページで、新型コロナの中国責任論を批判しつつ、「フランスの介護施設では看護者が夜勤を放棄し、入居者らを飢えと病気で死なせた」などと主張。フランスのル・ドリアン外務大臣が中国大使を呼びつけ、「事実でない」と強く抗議する事態に発展した。
また、英国では昨年7月、劉暁明駐英国大使がBBCの番組に出演した際に、中国国内でウイグル人が目隠しされ、次々に連行されて列車に乗せられる映像についてコメントを求められ、「何の映像かわからない」 「新疆は最も美しい場所」と主張し、英国世論の反発を買った。
これに加え、昨年9月、孔鉉佑駐日大使による「中国関連の問題を見るいくつかの視点」との論文が発表されたわけだが、その後、11月には在豪中国大使館が豪州メディアに対し、豪州における外国からの干渉防止の法律制定や5Gからのファーウェイ排除等14項目にわたる豪州に対する不満をまとめた文書を配布し、「中国を敵とするならば、中国が豪州の敵となる」と発言。モリソン豪首相は「圧力に屈しない」と激烈に反発した。