自由諸国をけん引する米国でも反中の「列国議会連盟」に加入している共和党のマルコ・ルビオ上院議員とロバート・メネンデス上院議員がボイコットを呼びかけ、昨年3月、共和党のリック・スコット上院議員が主導して12人の超党派議員がIOCに22年冬季五輪開催地を再検討するよう要請した。
そしてバイデン政権に変わった21年2月、ニッキー・ヘイリー元国連大使がFOXニュースに、北京冬季五輪を1936年のベルリン五輪になぞらえ、「ヒトラーは五輪をナチスのプロパガンダに最大限に利用、第二次大戦とホロコーストを引き起こした。現在の中国はナチスよりも危険であるのは明らかだ」と寄稿した。その根拠として、香港の民主化運動の弾圧、コロナにおけるパンデミック(世界的大流行)の「組織的で徹底した隠蔽」、そしてウイグル人への「ジェノサイド(集団虐殺)」を挙げた。
米オンライン誌『The Diplomat』によると、冬季五輪でメダルを獲得できる国は西側先進国が多く、不参加を決めれば、結束しやすいという。そして2019年7月にウイグル人の拘束を問題視して国連人権理事会に送付した共同書簡に署名した日本と英国をはじめとする22カ国に署名しなかった米国を加えた23カ国がボイコットの潜在的連合になると指摘している。
1980年のモスクワ五輪は旧ソ連によるアフガニスタン侵攻に抗議して米国主導で西側がボイコットした。バイデン政権は最終的な決断を下していない。しかし、米国務省のプライス報道官は4月6日の記者会見で、北京冬季五輪に米国が同盟諸国とともに共同ボイコットに踏み切る可能性に関し、「議論したい事項だ」とし、ボイコットも選択肢として排除しない立場を示し、「連携した取り組みは米国だけでなく同盟・パートナー諸国の利益にもなる」と述べ、同盟・パートナー諸国と対応を協議していく考えを明らかにした。
その一方で、「今はまだ2021年4月で、北京五輪は当分先だ」と指摘し、いつまでに参加の是非を決定するかは定めていないと強調した。
国際刑事裁判所が中国を捜査か
米国や同盟諸国が42年ぶりに北京五輪をボイコットに踏み切れば、国際刑事裁判所が中国当局によるウイグルでの人権侵害に捜査を開始することを促す説得材料になるとの見方もある。ボイコットに関する論議が本格化すれば、中国が五輪の有力スポンサーである米企業などに対してボイコットに反対するよう圧力をかけてくることが確実で、バイデン政権による米経済界に対する協力要請や根回しが活発化する可能性がある。
同盟国の日本は北京五輪ボイコット問題でも足並みを揃えることが求められ、東京五輪開催を控え、厳しい対応を迫られそうだ。
産経新聞論説委員、前ロンドン支局長。1959年生まれ。81年、立教大学社会学部を卒業後、産経新聞社に入社。社会部記者として警視庁、国税庁などを担当後、米デューク大学、コロンビア大学東アジア研究所に留学。外信部を経て、モスクワ支局長、編集局編集委員。2015年12月から19年4月までロンドン支局長を務める。著書に『消えたヤルタ密約緊急電』(新潮選書・第22回山本七平賞)、『「諜報の神様」と呼ばれた男』(PHP研究所)、『イギリスの失敗』(PHP新書)、『新日英同盟』(白秋社)など。