ジョンソン英首相は中国を許さない|岡部伸

ジョンソン英首相は中国を許さない|岡部伸

脱中国に舵を切り、関係諸国と「中国包囲網」を形成する英国のジョンソン首相。自由貿易協定、ウイグル人権制裁、北京五輪ボイコット――日本は英国と手を携えて自由主義国の気概を示せ。今こそ「新・日英同盟」を!


そこでレビューでは日本、オーストラリアなど価値観を共有する国々と連携して対処する姿勢を強調した。価値観を共有する国の中で英国が最も重視する国が日本だ。2017年、来日したメイ前首相は、「日英は自然なパートナーで、自然な同盟国」と述べ、以来、英国政府は外交文書などで、日本を「allies(同盟国)」と呼び、日本との新たな同盟の構築を模索する。ここではかつての侵略に共同で武力行使する軍事同盟ではなく、宇宙やサイバーを含めた安全保障のあらゆる分野で協力し合う関係だ。

日英両国は、自由や民主主義、法の支配といった基本的価値観や、米国を抜いて世界一の海洋強国となった中国を封じ込めるため、日本主導の「自由で開かれたインド太平洋」を推進する戦略目標を共有している。

ラーブ外相は、2月の日英外務・防衛閣僚協議(2プラス2)で、日本を「安全保障の重要なパートナーで永遠の友」と評し、レビューでも「アジアで最も緊密な戦略的パートナー」と位置付けた。条約上の同盟を結んではいないが、英国のラブコールに応じて、かつての日英同盟の下での緊密な関係を復活させて新たな同盟を目指すべきだろう。

英国はインド太平洋への関与の手始めとして、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加を表明した。TPP参加11カ国のうち、カナダ、オーストラリアなど6カ国が英連邦加盟国だ。英国が参加することはTPPが英国を中心とした世界的な枠組みに発展することを意味する。日本は英国と手を取って自由貿易を推進すべきだ。

中国は核弾頭を倍増させる

またインド太平洋における航行の自由確保を目指し、英海軍の存在感を高める一環として空母「クイーンエリザベス」を中心とする空母群を太平洋に派遣し、尖閣諸島や台湾海峡を含む西太平洋で日米英の共同訓練を行う。

さらに「自由で開かれたインド太平洋」を目標とする日米豪印の枠組み「クアッド」参加を検討する。対中包囲網構築に、日本は英国と連携して「クアッド」の補強に尽力するべきだろう。

ただレビューでは、中国とは「前向きに経済関係は追求する」とも記しており、英国の対中警戒策には一定の限界もあるが、インド太平洋への関与強化は、海警局に武器使用を認める海警法を施行し、尖閣周辺での行動を活発化させる中国への抑止力となるだろう。

またレビューは英国の核弾頭保有数の上限を180発から260発に引き上げる方針を示した。これに対し「軍縮に逆行する」との批判がかまびすしいが、安全保障上のやむを得ない措置だ。

中国は米国が再三求めても核軍縮交渉に応じず、核・ミサイル戦力を増強し、日米と英国を含む欧州にとって共通の脅威となっている。米国防総省は昨年9月、中国が今後10年で核弾頭数を「少なくとも倍増すると推定」した。ちなみに、ロシアのプーチン大統領はクリミア併合時に核兵器使用の準備をしていたことを公言している。

日本との安全保障上の連携を求める英国の核保有増は、中露の核戦力増強が核バランスを歪めて日米欧を守る核抑止力を弱体化させることを防ぐことになる。いわば現実的な方策である。

ウイグル人権制裁で「踏み絵」迫られる菅首相

Getty logo

関連する投稿


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米に広がる「反イスラエルデモ」は周到に準備されていた――資金源となった中国在住の実業家やBLM運動との繋がりなど、メディア報道が真実を伝えない中、次期米大統領最有力者のあの男が動いた!


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。