レビューで、新疆ウイグル自治区などでの人権問題では、「我々の価値観のために立ち向かうことをためらわない」と中国と対決姿勢をあらわにした。イギリスはじめ欧州は、中国が民主主義や人権といった価値観を共有していないと警戒する。とりわけ、懸念するのはウイグルの人権問題だ。欧州では、ナチスによるユダヤ人大量虐殺の反省から、特定の民族に対する弾圧に対して敏感である。
3月22日、ウイグルへの人権をめぐり米英カナダと欧州連合(EU)が足並みを揃えて中国当局者らへの制裁を発動した。英国とEUの対中制裁は、前身の欧州共同体(EC)が1989年の天安門事件を受けて発動して以来、約30年ぶり。これは2016年、米国は、人権侵害を理由に外国当局者に制裁を科すことができる法律を制定し、17年にカナダ、18年には英国が続き、2020年にEUが同様の法律を定めたことに起因する。今回の共同制裁発動は、この法律を根拠としている。G7で、この法律がないのは日本のみで、日本はG7で唯一制裁を見送った。
日本政府は、「中国と地理的に近く、経済面でも密接な関係にあることに加え、人権問題を理由に制裁を科す根拠となる法律が存在しない」して慎重姿勢を崩さないが、中谷元・元防衛相らを中心に与野党から日本でも制裁を可能にする法整備を急ぎ、人権問題により積極的に取り組むよう求める声が高まっている。日米首脳会談や6月の英国コンウオールでの主要7カ国(G7)首脳会議を控え、菅義偉首相は対応を迫られている。
普遍的価値を重視するバイデン米政権はウイグル人への迫害を「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定し、人権侵害に制裁を主導するだけに、4月16日に行われる日米首脳会談では、日本の確固たる姿勢を要求する可能性もある。懸念だけでなく具体的な行動が問われる。
1989年に起きた中国の天安門事件で、日本は、自由、民主主義という普遍的価値を西側諸国と共有しながら、G7で共同制裁を拒否するなど中国に融和的対応をとり続け、結果的に中国の民主主義が深まらず、覇権志向の膨張を招いただけに自由主義国としての相応の対応が求められそうだ。
米英豪で進む北京五輪ボイコット
また英国ではオーストラリアなどとともに2022年北京冬季五輪にボイコットする動きが水面下で進んでいる。ウイグルでの中国共産党による民族浄化とされる激しい人権侵害を見過ごすことができないためだ。
昨年6月に日米欧の16カ国の議員らが結成した世界的な反中議員連盟、「対中政策に関する列国議会連盟」の初代議長に就任した保守党の元党首、イアン・ダンカン・スミス議員が同8月、英国政府が国際オリンピック委員会(IOC)に中国から22年五輪開催権を「はく奪」するか、「公式代表者の参加禁止」を要請すべきだと提案した。
さらに世界60カ国以上の300以上の人権団体が、中国の人権侵害問題に対して緊急の対応をとるよう国連に呼び掛け、このうち160以上の人権団体が昨年9月、IOCに、人権侵害を理由に北京冬季五輪開催再考を求める書簡を提出した。
これを受けてラーブ英外相が、中国による新疆ウイグル人への迫害の証拠が増えた場合、北京冬季五輪に不参加の可能性を示唆したのは昨年10月6日の英議会外交委員会だった。「証拠を集め、国際社会におけるパートナーと連携し、どのような措置を講じるべきかを検討する」(ラーブ外相)と宣言した。
このラーブ外相の呼びかけに応じたのが、対中関係が「過去最悪」のオーストラリアの国会議員だった。超党派で「1936年のヒトラーのナチス政権下で開催されたベルリン五輪と類似性」があるとして北京冬季五輪のボイコットを呼びかけた。上院のレックス・パトリック議員とジャッキー・ランビー議員の要請により、同11月下旬、豪連邦議会は北京冬季五輪不参加について審議した。トリック議員は、中国共産党による深刻な人権侵害がある中で、「オーストラリア選手の五輪参加は無謀で危険。道徳的に誤り」と主張、エリック・アベッツ上院議員は、IOCが「野蛮で権威主義的、全体主義的な政権」に開催を許可すれば、IOCの立場は損なわれると警告している。