朝日新聞による言論抹殺―後編|小川榮太郎

朝日新聞による言論抹殺―後編|小川榮太郎

それにしても、と思わず嘆息せざるを得ないのは朝日新聞の訴状のひどさである。訴状の詳細を挙げてゆくのは煩わしいが、バカバカしさを知っていただくために、あえていくつかを検討する。


膨大な情報量のなかで、新聞が世論形成をする最大の武器は「見出し」にある。膨大な記事のなかに、見出しと違う発言や朝日新聞が誘導したい方向と違う記事がごくわずかでも記載されていれば、それを以て公正な報道をした、虚報や捏造ではないとの言い訳が通用する──それは最早、マスコミによる言論暗黒社会に他ならないであろう。

言論とは、物量に物を言わせて相手を黙らせるべきものではない。

社会常識のなかで、対象をどう読み解き、事実をどのようなアングルで確定し、そしてその確定したアングルから見える像を如何に論評するかを切磋琢磨するのが、言論の自由だ。互いに相手による評価や要約が不服ならば、天下の公論の場で論争する──それが言論の自由を守るための最低限のルールである。

こんな裁判を日本社会が容認したら、大企業や大組織が批判本に対し、著書全体の論証能力を度外視して、些末な事実や、著者の評価部分を切り取って高額の賠償請求の根拠にする先例を開く。

現在、出版もジャーナリズムも経済的に極めて低調だ。1万部を超えて増刷される本さえ稀であり、ほとんどの著者、ジャーナリストは大学やマスコミなどに属していない限り厳しい経済環境に置かれている。私も例外ではない。 私自身は、今後も必要な批判は遠慮会釈なくしてゆく。

が、この訴訟が朝日の部分勝訴、いや全面的に訴えが棄却されても、このような訴訟を起こした朝日新聞が社会的に断罪されないで終われば、多くの著者や出版社は、朝日のみならず大組織への批判を自粛することになりかねない。 何しろ5000万円という途方もない賠償金額である。
算定根拠がない。

脅しの効果はじわじわと効き始めているのではないか。その意味で、これが典型的なスラップ訴訟に該当する点を最後に指摘しておきたい。

人権派新聞のスラップ訴訟

「スラップ」(SLAPP、strategic lawsuit against public participation)とは、大企業や政府など社会的に見て比較強者が、権力を持たない個人を相手取り、発言封じなど、恫喝や報復を目的とした訴訟のことだ。高額の賠償を請求する名誉毀損訴訟、批判を封殺する訴訟など訴訟権の濫用に対して広範に用いられる概念であり、今回のケースは明白なスラップと言えるであろう。 そして、訴訟大国アメリカのほとんどの州では、すでにスラップを禁止、抑止する「アンチスラップ条項」が制定されている。

たとえば、カリフォルニア民事訴訟法425条16項では「議会は(中略)言論の自由にかかわる憲法上の諸権利の有効な行使を萎縮させることを主目的とした、妨害的な訴訟が増加していることを確認し言明する」とし、言論の自由の範囲内の行為に向けて起こされた訴訟に対し、被告が対抗するための特別動議(反スラップ動議)を定めている。

被告側から反スラップ動議が提出されると、裁判の手続きが停止し、反スラップ動議を勝ち取った被告は、弁護士費用のかなりの部分を負担させる権利が生じる。また、反訴して損害を回復できる手続きも規定されている。提訴がスラップと認定されれば、原告は社会的指弾を浴びせられる。

今回の朝日訴訟は、私の議論に全く賛成しないとしても「教科書に載るようなスラップ提訴だ」と批判しているのは元朝日新聞記者、烏賀陽弘道氏だ。本来、スラップがあれば糾弾する先頭に立つべき人権派新聞が、他の日本企業があえて踏み切ったことのないような模範的スラップを仕掛けてきた。この点でも、朝日新聞は末期症状を呈しているといえるのではあるまいか。

朝日新聞への要求

以下、関係各位に強く訴え、本稿を閉じたい。

まず、国会に求めたい。森友・加計に関する朝日新聞の一連の報道と、拙著への朝日訴訟という一連の経過は、朝日新聞による虚偽事実に基づく輿論の誘導と個人著者の言論抹殺訴訟という、二重に日本国憲法の根幹を脅かす暴挙であり、国会で検証すべきだ。

とりわけ、今回の提訴がスラップの濫用へと道を開くことが憂慮される。スラップ防止法の早期制定を強く求めたい。

一方、朝日新聞社には、改めて次のことを求めたい。

私は裁判を受けて立つ。が、こんな一方的で粗末な訴状を私が受けて立つ以上、朝日新聞側も係争中だと逃げず、私の要求に答えなさい。

拙著について、Amazonのレビュー230件ほどの多数の読者投稿の判定は、圧倒的に朝日がクロというものだ。しかも特徴的なのは、私に批判的なスタンス──たとえば、私の推論部分や安倍首相、安倍夫人擁護に異議があるというような──を保持しながら、拙著の相対的な正当性を認める読者が多数いることだ。そうした読者も含め、Amazon☆5つが93%に上る。そのような本が提起する問題から、係争を理由に逃げることは、社会的に許されまい。

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