朝日新聞による言論抹殺―後編|小川榮太郎

朝日新聞による言論抹殺―後編|小川榮太郎

それにしても、と思わず嘆息せざるを得ないのは朝日新聞の訴状のひどさである。訴状の詳細を挙げてゆくのは煩わしいが、バカバカしさを知っていただくために、あえていくつかを検討する。


「1人の証言だけ」の意味

一方、狡猾な論法も紛れ込んでいるから油断はできない。次のものは、訴状全体に目に付く法廷向けの論法だ。

《「朝日新聞とそれに追随するマスコミは、大騒ぎを演じた2ヶ月半、これらの当事者に殆ど取材せず、報道もしていない。前川1人の証言だけで加計問題を報じ続けた」と記載した(摘示事実(11))》

それに対し、訴状は、朝日新聞は《前川氏以外の「これらの当事者」の発言を幅広く報じていた》と主張し、麻生太郎氏、八田達夫氏、原英之氏、義家弘介氏らの発言を報じた紙面を10件(甲の31~40)出している。

そもそも論から言えば、朝日新聞が摘示事実として示した拙文《前川1人の証言だけで加計問題を報じ続けた》というのは「事実」記述ではなく、朝日新聞の報道傾向についての「要約的評価」の部分だ。そもそも、2カ月半にわたる連日の報道を、厳密な事実の問題として《前川1人の証言だけ》でこなせるはずはないに決まっており、私もそんな馬鹿げた主張をしているわけではない。

多数の見出しと圧倒的な記事分量で《前川1人の証言だけ》に沿った紙面を構成し続けた、と指摘しているのだ。

朝日新聞は毎日、朝夕刊併せて40頁以上、約1496000字の活字を世に送り出し続けている(朝日公式サイトより。2007年4月調べ)。これは、400字詰め原稿用紙にして約3740枚、新書に換算すれば、実に15冊分の分量だ。私が区切った2カ月半となれば、新書にして1000冊となる。ほとんどの日本人の一生分の読書量より多い。

その膨大な記事のなかで、ある日の記事の些末な箇所で八田氏や原氏を取り上げた、加計問題の文脈と違う公務員の守秘義務問題で義家氏を批判的に取り上げたなどということが、「前川1人」という私の要約への反論になるだろうか。

私がある画家の絵を論評して、「キャンバス一面を真っ赤に塗りたくっただけ」と書いたとする。それに対して、絵かきが「自分は真っ赤に塗りたくってはいない。右下の隅に、約3ミリぐらいの黒いポチがあり、真ん中に4ミリの緑の線が引いてある、左上には少し大きな余白がある。したがって、一面を真っ赤に塗りたくったというのは事実に反するから、損害賠償をよこせ」と言ったらどうか。

こんな訴訟が罷り通れば、日本社会における要約的論評の自由そのものが死ぬ。それを一画家でなく、言論の自由を死守する側に立つべき新聞社が、巨額の倍賞請求をしているのだ。

論争が最低限のルール

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