朝日新聞による言論抹殺―後編|小川榮太郎

朝日新聞による言論抹殺―後編|小川榮太郎

それにしても、と思わず嘆息せざるを得ないのは朝日新聞の訴状のひどさである。訴状の詳細を挙げてゆくのは煩わしいが、バカバカしさを知っていただくために、あえていくつかを検討する。


「一般的な手法」には失笑せざるを得ない。私の批判の中心は、単なる画像処理だけへのものではない。

繰り返し指摘してきたが、朝日は画像で重要部分を隠したうえ、紙面で一度も、合計600字程度に過ぎないスクープ文書の全文公表と、全文が示す時系列の解説を出していない。こういうやり口の全体がいかさまではないか、と私は言っているのだ。

言うまでもなく、朝日新聞がスクープをした時点で、他の誰も文書を入手していない。朝日が全文を公開しなければ、見出しや記事が適切かどうか、誰も判断できないからだ。

そのうえ、朝日が「一般的な手法」として例示している3例のうち、毎日と読売は画像処理こそ同種だが、記事では隠れた部分の文書内容も紹介している。私の主張の核心に答えず、他紙の画像処理を持ち出しての強弁は卑怯であろう。

次の摘示個所も滑稽と言う他ない。

《本件書籍は、2017年5月17日付朝日新聞朝刊記事について、「ある人物が朝日新聞とNHKの人間と一堂に会し、相談の結果、NHKが文書Aを夜のニュースで、朝日新聞が翌朝文書群Bを報道することを共謀したとみる他ないのではあるまいか」と記載した。しかし、原告の記者や幹部が、加計学園の問題について「ある人物」やNHKの人間と一堂に会したことも報道について共謀したこともない》

該当箇所は「あるまいか」とあるように推定だ。ここは、拙著154頁から160頁にかけて、事実を明らかにできない事情を説明しつつ、限られた事実から推理した一連部分の一節なのである。「事実」記述でなく「推定」記述であることは、誤解の余地がない。

しかも、この7頁にわたる一連の推理箇所を閉じるにあたり、私は160頁で《以上、現時点では取材拒否が多く、明らかにならない推定を多く含むことはお断りしておく。が、当らずといえども遠からずではないか。要するに、加計スキャンダルは朝日新聞とNHKの幹部職員が絡む組織的な情報操作である可能性が高いということだ》と結んでいる。

推論が許されないのか

限られた情報による論理的蓋然性の推定を、事実に反するとして高額の賠償請求をされては誰も推論を書けなくなってしまう。いや、朝日新聞こそは「総理の意向」の一言で論理的蓋然性に極めて乏しい推理を大々的に展開し続けた張本人ではないか。

しかも、ここでの朝日の言いがかりが凄い。《原告の記者や幹部が、加計学園の問題について「ある人物」やNHKの人間と一堂に会したこと》はないと断定しているが、私はここで人物を特定していない。

私が特定もしていない2つの大組織の人間が会ったことがない、とどうして断定できるのか。たとえば私が、朝日新聞の渡辺社長とNHKの上田良一会長と小池英夫報道局長とが一堂に会した、とでも断定しているならば、3人が会合の事実を否定して訂正を要求するというのは理解できる。いや、憶測として書いても、根拠薄弱ならば抗議があって然るべきだ。

だが私は、ここで事実の「断定」はおろか、事実の「憶測」をしているのでもない。不特定の人物相互が会ったかもしれないという書き方は「事実の憶測」ではなく、事柄と事柄の関係についての「論理的推理」であり、該当箇所7頁を読めばそれはわかる。

事実、本書への多数の感想のなかで、ここでの推理は疑問視する声が数件見られた例外的な項だった。異議申し立てがされ得るという意味では弱みだが、それが本書の厚みでもある。明らかにし得る事実のみに記述を限定せず、蓋然性の高い推理に挑戦するのは社会評論の一般的な手法だ。だからこそ、そういう部分部分の推定や評価の説得力の有無は、読者の判断や良識に委ねるのが自由社会の鉄則ではないのか。

賠償請求金額は5000万円、13項目の摘示事実で単純に割ると、この件だけで385万円に当たることを忘れまい。

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