朝日新聞による言論抹殺―後編|小川榮太郎

朝日新聞による言論抹殺―後編|小川榮太郎

小川榮太郎


朝日新聞による言論抹殺―前編

いかさまの文書写真加工

新聞

それにしても、と思わず嘆息せざるを得ないのは朝日新聞の訴状のひどさである。

訴状の詳細を挙げてゆくのは煩わしいが、バカバカしさを知っていただくために、あえていくつかを検討する。

朝日新聞が加計学園スクープ初報で、スクープ文書を黒い影で囲い、「総理の意向」でないことが推定される部分を隠したとの指摘は、私のみならず多くの言論人が繰り返しているが、このことについて訴状は次のように主張する。

《このように文書について報道する場合に文書の一部にスポットをあてた写真を掲載する事は新聞報道の一般的な手法であり、毎日新聞、読売新聞、東京新聞も本件文部科学省記録文書の写真を同様の手法で掲載している(2017年5月17日毎日新聞夕刊、東京新聞夕刊、6月16日読売新聞朝刊)》

「一般的な手法」には失笑せざるを得ない。私の批判の中心は、単なる画像処理だけへのものではない。

繰り返し指摘してきたが、朝日は画像で重要部分を隠したうえ、紙面で一度も、合計600字程度に過ぎないスクープ文書の全文公表と、全文が示す時系列の解説を出していない。こういうやり口の全体がいかさまではないか、と私は言っているのだ。

言うまでもなく、朝日新聞がスクープをした時点で、他の誰も文書を入手していない。朝日が全文を公開しなければ、見出しや記事が適切かどうか、誰も判断できないからだ。

そのうえ、朝日が「一般的な手法」として例示している3例のうち、毎日と読売は画像処理こそ同種だが、記事では隠れた部分の文書内容も紹介している。私の主張の核心に答えず、他紙の画像処理を持ち出しての強弁は卑怯であろう。

次の摘示個所も滑稽と言う他ない。

《本件書籍は、2017年5月17日付朝日新聞朝刊記事について、「ある人物が朝日新聞とNHKの人間と一堂に会し、相談の結果、NHKが文書Aを夜のニュースで、朝日新聞が翌朝文書群Bを報道することを共謀したとみる他ないのではあるまいか」と記載した。しかし、原告の記者や幹部が、加計学園の問題について「ある人物」やNHKの人間と一堂に会したことも報道について共謀したこともない》

該当箇所は「あるまいか」とあるように推定だ。ここは、拙著154頁から160頁にかけて、事実を明らかにできない事情を説明しつつ、限られた事実から推理した一連部分の一節なのである。「事実」記述でなく「推定」記述であることは、誤解の余地がない。

しかも、この7頁にわたる一連の推理箇所を閉じるにあたり、私は160頁で《以上、現時点では取材拒否が多く、明らかにならない推定を多く含むことはお断りしておく。が、当らずといえども遠からずではないか。要するに、加計スキャンダルは朝日新聞とNHKの幹部職員が絡む組織的な情報操作である可能性が高いということだ》と結んでいる。

推論が許されないのか

限られた情報による論理的蓋然性の推定を、事実に反するとして高額の賠償請求をされては誰も推論を書けなくなってしまう。いや、朝日新聞こそは「総理の意向」の一言で論理的蓋然性に極めて乏しい推理を大々的に展開し続けた張本人ではないか。

しかも、ここでの朝日の言いがかりが凄い。《原告の記者や幹部が、加計学園の問題について「ある人物」やNHKの人間と一堂に会したこと》はないと断定しているが、私はここで人物を特定していない。

私が特定もしていない2つの大組織の人間が会ったことがない、とどうして断定できるのか。たとえば私が、朝日新聞の渡辺社長とNHKの上田良一会長と小池英夫報道局長とが一堂に会した、とでも断定しているならば、3人が会合の事実を否定して訂正を要求するというのは理解できる。いや、憶測として書いても、根拠薄弱ならば抗議があって然るべきだ。

だが私は、ここで事実の「断定」はおろか、事実の「憶測」をしているのでもない。不特定の人物相互が会ったかもしれないという書き方は「事実の憶測」ではなく、事柄と事柄の関係についての「論理的推理」であり、該当箇所7頁を読めばそれはわかる。

事実、本書への多数の感想のなかで、ここでの推理は疑問視する声が数件見られた例外的な項だった。異議申し立てがされ得るという意味では弱みだが、それが本書の厚みでもある。明らかにし得る事実のみに記述を限定せず、蓋然性の高い推理に挑戦するのは社会評論の一般的な手法だ。だからこそ、そういう部分部分の推定や評価の説得力の有無は、読者の判断や良識に委ねるのが自由社会の鉄則ではないのか。

賠償請求金額は5000万円、13項目の摘示事実で単純に割ると、この件だけで385万円に当たることを忘れまい。

「1人の証言だけ」の意味

一方、狡猾な論法も紛れ込んでいるから油断はできない。次のものは、訴状全体に目に付く法廷向けの論法だ。

《「朝日新聞とそれに追随するマスコミは、大騒ぎを演じた2ヶ月半、これらの当事者に殆ど取材せず、報道もしていない。前川1人の証言だけで加計問題を報じ続けた」と記載した(摘示事実(11))》

それに対し、訴状は、朝日新聞は《前川氏以外の「これらの当事者」の発言を幅広く報じていた》と主張し、麻生太郎氏、八田達夫氏、原英之氏、義家弘介氏らの発言を報じた紙面を10件(甲の31~40)出している。

そもそも論から言えば、朝日新聞が摘示事実として示した拙文《前川1人の証言だけで加計問題を報じ続けた》というのは「事実」記述ではなく、朝日新聞の報道傾向についての「要約的評価」の部分だ。そもそも、2カ月半にわたる連日の報道を、厳密な事実の問題として《前川1人の証言だけ》でこなせるはずはないに決まっており、私もそんな馬鹿げた主張をしているわけではない。

多数の見出しと圧倒的な記事分量で《前川1人の証言だけ》に沿った紙面を構成し続けた、と指摘しているのだ。

朝日新聞は毎日、朝夕刊併せて40頁以上、約1496000字の活字を世に送り出し続けている(朝日公式サイトより。2007年4月調べ)。これは、400字詰め原稿用紙にして約3740枚、新書に換算すれば、実に15冊分の分量だ。私が区切った2カ月半となれば、新書にして1000冊となる。ほとんどの日本人の一生分の読書量より多い。

その膨大な記事のなかで、ある日の記事の些末な箇所で八田氏や原氏を取り上げた、加計問題の文脈と違う公務員の守秘義務問題で義家氏を批判的に取り上げたなどということが、「前川1人」という私の要約への反論になるだろうか。

私がある画家の絵を論評して、「キャンバス一面を真っ赤に塗りたくっただけ」と書いたとする。それに対して、絵かきが「自分は真っ赤に塗りたくってはいない。右下の隅に、約3ミリぐらいの黒いポチがあり、真ん中に4ミリの緑の線が引いてある、左上には少し大きな余白がある。したがって、一面を真っ赤に塗りたくったというのは事実に反するから、損害賠償をよこせ」と言ったらどうか。

こんな訴訟が罷り通れば、日本社会における要約的論評の自由そのものが死ぬ。それを一画家でなく、言論の自由を死守する側に立つべき新聞社が、巨額の倍賞請求をしているのだ。

論争が最低限のルール

膨大な情報量のなかで、新聞が世論形成をする最大の武器は「見出し」にある。膨大な記事のなかに、見出しと違う発言や朝日新聞が誘導したい方向と違う記事がごくわずかでも記載されていれば、それを以て公正な報道をした、虚報や捏造ではないとの言い訳が通用する──それは最早、マスコミによる言論暗黒社会に他ならないであろう。

言論とは、物量に物を言わせて相手を黙らせるべきものではない。

社会常識のなかで、対象をどう読み解き、事実をどのようなアングルで確定し、そしてその確定したアングルから見える像を如何に論評するかを切磋琢磨するのが、言論の自由だ。互いに相手による評価や要約が不服ならば、天下の公論の場で論争する──それが言論の自由を守るための最低限のルールである。

こんな裁判を日本社会が容認したら、大企業や大組織が批判本に対し、著書全体の論証能力を度外視して、些末な事実や、著者の評価部分を切り取って高額の賠償請求の根拠にする先例を開く。

現在、出版もジャーナリズムも経済的に極めて低調だ。1万部を超えて増刷される本さえ稀であり、ほとんどの著者、ジャーナリストは大学やマスコミなどに属していない限り厳しい経済環境に置かれている。私も例外ではない。 私自身は、今後も必要な批判は遠慮会釈なくしてゆく。

が、この訴訟が朝日の部分勝訴、いや全面的に訴えが棄却されても、このような訴訟を起こした朝日新聞が社会的に断罪されないで終われば、多くの著者や出版社は、朝日のみならず大組織への批判を自粛することになりかねない。 何しろ5000万円という途方もない賠償金額である。
算定根拠がない。

脅しの効果はじわじわと効き始めているのではないか。その意味で、これが典型的なスラップ訴訟に該当する点を最後に指摘しておきたい。

人権派新聞のスラップ訴訟

「スラップ」(SLAPP、strategic lawsuit against public participation)とは、大企業や政府など社会的に見て比較強者が、権力を持たない個人を相手取り、発言封じなど、恫喝や報復を目的とした訴訟のことだ。高額の賠償を請求する名誉毀損訴訟、批判を封殺する訴訟など訴訟権の濫用に対して広範に用いられる概念であり、今回のケースは明白なスラップと言えるであろう。 そして、訴訟大国アメリカのほとんどの州では、すでにスラップを禁止、抑止する「アンチスラップ条項」が制定されている。

たとえば、カリフォルニア民事訴訟法425条16項では「議会は(中略)言論の自由にかかわる憲法上の諸権利の有効な行使を萎縮させることを主目的とした、妨害的な訴訟が増加していることを確認し言明する」とし、言論の自由の範囲内の行為に向けて起こされた訴訟に対し、被告が対抗するための特別動議(反スラップ動議)を定めている。

被告側から反スラップ動議が提出されると、裁判の手続きが停止し、反スラップ動議を勝ち取った被告は、弁護士費用のかなりの部分を負担させる権利が生じる。また、反訴して損害を回復できる手続きも規定されている。提訴がスラップと認定されれば、原告は社会的指弾を浴びせられる。

今回の朝日訴訟は、私の議論に全く賛成しないとしても「教科書に載るようなスラップ提訴だ」と批判しているのは元朝日新聞記者、烏賀陽弘道氏だ。本来、スラップがあれば糾弾する先頭に立つべき人権派新聞が、他の日本企業があえて踏み切ったことのないような模範的スラップを仕掛けてきた。この点でも、朝日新聞は末期症状を呈しているといえるのではあるまいか。

朝日新聞への要求

以下、関係各位に強く訴え、本稿を閉じたい。

まず、国会に求めたい。森友・加計に関する朝日新聞の一連の報道と、拙著への朝日訴訟という一連の経過は、朝日新聞による虚偽事実に基づく輿論の誘導と個人著者の言論抹殺訴訟という、二重に日本国憲法の根幹を脅かす暴挙であり、国会で検証すべきだ。

とりわけ、今回の提訴がスラップの濫用へと道を開くことが憂慮される。スラップ防止法の早期制定を強く求めたい。

一方、朝日新聞社には、改めて次のことを求めたい。

私は裁判を受けて立つ。が、こんな一方的で粗末な訴状を私が受けて立つ以上、朝日新聞側も係争中だと逃げず、私の要求に答えなさい。

拙著について、Amazonのレビュー230件ほどの多数の読者投稿の判定は、圧倒的に朝日がクロというものだ。しかも特徴的なのは、私に批判的なスタンス──たとえば、私の推論部分や安倍首相、安倍夫人擁護に異議があるというような──を保持しながら、拙著の相対的な正当性を認める読者が多数いることだ。そうした読者も含め、Amazon☆5つが93%に上る。そのような本が提起する問題から、係争を理由に逃げることは、社会的に許されまい。

・紙面による朝日側と小川側の主張の検証を大きな規模で読者に提示するよう要求する。

・両者を代表する有識者による対論の掲載を要求する。

・朝日新聞記者や幹部が出席しての公開討論を要求する。

これらの要求を黙殺すれば、黙殺した事実を広く朝日新聞読者に伝えてゆく運動を起こす所存だ。

新聞各社にも訴えたい。係争中の著書の新聞広告は控えるという内規が各社にあるという。 そのため、この1月から多くの新聞で広告が掲載できなくなっているが、これはおかしい。

私は刑事事件の被告か、あるいはその可能性を疑われているのでは全くない。民事訴訟の提訴に一定の良識や基準があった時代ならともかく、今回のように訴訟そのものがスラップだと指摘されている件で広告掲載をしないとなれば、今後、不正が告発された社会的強者は、民事訴訟を起こせば、その間、社会的批判から逃げられることになるではないか。

民事訴訟に関する書籍の広告基準を見直すことを新聞各社に要請したい。

販売代理店に贈呈運動

読者にも強く訴えたい。


これは、私と朝日新聞の問題ではない。この裁判の帰趨は、日本の言論、日本の憲法体制、日本の今後の自由そのものに間違いなく強い影響を与える。


しかも、衆寡敵せず、我々は『月刊Hanada』と産経をはじめとする少数の保守系言論誌とネットによってしか国民に事実を知らせる術がない。 この裁判に関しては、私が代表理事を務める一般社団法人日本平和学研究所のホームページに特設サイトを設けた。進行状況や御支援、運動に関しては、「http://asahislapp.jp」を参照いただければ幸いだ。


その活動の1つの中核は、朝日新聞の全販売代理店に、本書と朝日の訴状と今回の拙稿を同封してプレゼントする贈呈運動となる。


不特定多数に本書を読んでもらっても、輿論形成にはなかなか発展しない。朝日新聞の今回の行状を最も知るべきなのは、販売代理店の人たちだ。彼らこそ、朝日新聞の実態を知らねば生存権にかかわる人たちだからである。約2400の朝日の販売代理店への贈呈運動の結果生じる印税収入は、この運動に還元する。


朝日新聞の販売代理店が拙著に説得力を感じるか、朝日の側の正当性を確認することになるかの判断は代理店各位に任せたい。


どの道、朝日新聞が、冒頭引用した綱領を本当に大切にする新聞に生まれ変われば、それで私の戦いは終わるのである。(おわり)

※本文中、スラップに関する部分は(社)日本平和学研究所の岡田鉄兵研究員の調べ・見解に負うている。

朝日新聞による言論抹殺―前編

著者略歴

小川榮太郎

https://hanada-plus.jp/articles/208

文藝評論家、社団法人日本平和学研究所理事長。昭和42(1967)年生まれ。大阪大学文学部卒業、埼玉大学大学院修了。第18回正論新風賞を受賞。主な著書に『約束の日―安倍晋三試論』(幻冬舎)、『徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)など。公式サイト→http://ogawaeitaro.com

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末永恵

末永恵

米国留学(米政府奨学金取得)後、産経新聞社入社。産経新聞東京本社外信部、経済部記者として経済産業省、外務省、農水省記者クラブなどに所属。その後、大阪大学特任准教授を務め、国際交流基金(Japan Foundation,外務省所管独立行政法人)の専門家派遣でマラヤ大学(客員教授)で教鞭、研究にも従事。 政治経済分野以外でも、タイガー・ウッズ、バリー・ボンズ、ピーター・ユベロス米大リーグコミッショナー、ダビ・フェレール、錦織圭などスポーツ分野の取材も行う。


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