永田町権力闘争の舞台裏~菅政権誕生編|大下英治

永田町権力闘争の舞台裏~菅政権誕生編|大下英治

かつて中曽根政権が安定したのは、田中角栄がキングメーカーとしてスタートを切らせたからだ。菅政権も二階俊博のおかげで安定したすべり出しとなった。さらに安倍晋三が背後から支え続ける。 菅政権は、2021年9月までの短期政権どころか、長期政権の雰囲気すら漂ってくる。 


Getty logo

気配りだけなら岸田文雄にもあるが、いい人すぎる。政治家には舐められない怖さが必要だ。気配りばかりでは舐められ、怖さだけでは人を動かせない。二階も菅も、両方を兼ね備えている。  

いま永田町で、本当に喧嘩のできる政治家は菅と二階しかいない。あとはみんな、言葉は悪いが精神的に“ジャニーズ風”だ。喧嘩の強いやつは誰が強いかわかるから、強い者同士は勝負をしかけない。だから組める。  

2人とも、田中派の流れを汲む政治家であることを強調したい。二階は生粋の田中派出身。やはり田中角栄の弟子で竹下派の梶山静六の弟分が菅。闘争本能を持っているから勝つし、それがない政治家は、コロナの混乱時代に勝ち残れない。菅と二階は、その凄みの点でも似ている。  

菅は無派閥で、隠れ派閥(ガネーシャの会)などに40人ほどいるが、二階と組まない限り、どう頑張っても総裁選には勝てなかった。他方で岸田政権になれば、二階は幹事長になれない。二階、菅はお互いを知り、利害も一致したということなのだ。  

石破茂について、二階はよく「わしは田中角栄の直系子分、アイツは違う」という。たしかに石破は木曜クラブの事務局員で、田中派から出馬したわけではない。  

父親の石破二朗は最終的に鳥取県知事を務めたが、もとは田中派だった。その父が亡くなり、角栄は息子の茂を木曜クラブに引き取って事務局員にした。いざ選挙に出るとき、鳥取には田中派の議員がいたため、角栄がミッチーに頼んで、中曽根派から出た。  

2020年6月、石破は二階幹事長を訪ねて石破派の政治資金パーティでの講演を依頼した。二階は快諾し、記者会見で「期待の星の一人だ」と持ち上げた。石破は大喜びしていたが、幹事長なら自民党議員のパーティで講演するのは当たり前だ。  

石破はこれまで一度も二階とサシで飲んだことがない。総裁選で自分を推すよう頼むのは、極端な話、徳川家康と石田三成との決戦で三成に加勢しろというようなもので、敗れれば、昔なら皆殺し。飲んだこともない相手に命を預けてくれと頼みに行き、幹事長室で会っただけで支持を取り付けたように錯覚したのは石破の甘いところだ。  

石破は二階と菅は仲がいいから、菅も反岸田だろうと、あらぬ戦略を組み立てたわけだ。

二階が見た地獄

石破は「私は永田町の仲間と飲んで絆を深めることは好みでない」と常々言い続けている。  私は石破の半生記『石破茂の「日本創生」』を上梓して、政策立案能力は認めているからこそ言いたい。「石破さん、派閥を作って何年になるんですか」と。石破派は19人から一向に増えない。どころか、むしろ減っている。  石破の師、田中角栄の教えは「数は力なり」ではなかったか。  しかも石破幹事長の時代に、派閥政治の解消を主張していながら、その後、堂々と自分の派閥(水月会)を作った経緯もある。  

二階は2009年の総選挙で、派閥の衆議院議員8人のうち自分一人以外、全員が落選という地獄を見た。そのとき二階は電話で「仕方がないから、伊吹派(志帥会)にわらじを脱ぐよ」と言った。そのとき伊吹派は10人ソコソコ、二階はあくまでよそ者だった。それがいまや二階派になり、国会議員は47人を数える。いかに凄腕か。

石破茂の大誤算

関連する投稿


「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

チマチマした少子化対策では、我が国の人口は将来半減する。1子あたり1000万円給付といった思い切った多子化政策を実現し、最低でも8000万人台の人口規模を維持せよ!(サムネイルは首相官邸HPより)


「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

トランプ前大統領の〝盟友〟、安倍晋三元総理大臣はもういない。「トランプ大統領復帰」で日本は、東アジアは、ウクライナは、中東は、どうなるのか?


自衛隊の災害派遣経費は自腹でいいのか?|小笠原理恵

自衛隊の災害派遣経費は自腹でいいのか?|小笠原理恵

「休暇中に帰省するのは許可するけど、何かあったときは自腹で帰ってきてねというスタンスです」と自衛隊幹部。被災地で活躍する自衛隊に多くの国民が感謝しているが、自衛隊では災害派遣活動中でも自腹負担が多数みられる――。(サムネイルは「陸上自衛隊 中部方面隊」Xより)


日米に対して、中国「ゼロ回答」の背景|和田政宗

日米に対して、中国「ゼロ回答」の背景|和田政宗

日中首脳会談が約1年ぶりに開催された。岸田総理は日本の排他的経済水域(EEZ)内に設置されたブイの即時撤去等を求めたが、中国は「ゼロ回答」であった。聞く耳を持たない中国とどう向き合っていけばいいのか。(サムネイルは首相官邸HPより)


望月衣塑子記者の暴走と自壊するジャーナリズム|和田政宗

望月衣塑子記者の暴走と自壊するジャーナリズム|和田政宗

ジャニーズ事務所会見での「指名NGリスト」が騒ぎになっているが、そもそも記者会見とは何か、ジャーナリズムとは何か、それらをはき違えた人物たちにより我が国のジャーナリズムが破壊されることは、ジャーナリズム出身者としても許せない。(サムネイルはYouTubeより)


最新の投稿


【今週のサンモニ】社会を説教するが具体策は何もなし|藤原かずえ

【今週のサンモニ】社会を説教するが具体策は何もなし|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【川勝劇場終幕】川勝平太とは何者だったのか|小林一哉

【川勝劇場終幕】川勝平太とは何者だったのか|小林一哉

川勝知事が辞任し、突如、終幕を迎えた川勝劇場。 知事の功績ゼロの川勝氏が、静岡に残した「負の遺産」――。


【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

チマチマした少子化対策では、我が国の人口は将来半減する。1子あたり1000万円給付といった思い切った多子化政策を実現し、最低でも8000万人台の人口規模を維持せよ!(サムネイルは首相官邸HPより)


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!