経済が争点とならず
玉城氏が当選したのは、アベノミクスのお陰での好景気がゆえに経済振興が保守側の武器にならなかったことがある。玉城デニー氏は当選の弁で、「順調な経済をこれからもしっかりと伸ばしていく」と言ったが、いまの沖縄の好景気は翁長氏の功績ではまったくなく、アベノミクスのおかげで人手不足なのである。アベノミクスの恩恵をもっとも受けたがゆえに、それが原因で知事選で敗北したのでは皮肉だ。
これまで保守が勝ったのは、だいたい経済不況や失業が原因だった。とくに語りぐさなのは、革新の大田昌秀知事を保守の稲嶺惠一候補が破った1998年の知事選挙で、このときは「9.2パーセント」という失業率をポスターなどに掲げて稲嶺陣営は戦い、見事な勝利を収めた。それがいまでは3.3パーセントという低水準で、本土ともそれほど大きな差ではないのである。
米マスターカードが9月末に発表した「2018年度世界渡航先ランキング」によると、過去8年間の渡航者数の成長率を比較する「急成長渡航先ランキング」で、世界のトップは沖縄だったという(2位は京都、3位は大阪)。
自民党が公共事業確保のために佐喜眞氏にと呼びかけても、「民間の仕事で手一杯で公共事業は欲しいと思わない」と言われたケースもあった。このあたりは、菅官房長官らが辺野古についてこわもての強硬策に出る一方、沖縄振興策は予算を少しカットするくらいに留めたのが裏目に出たともいえる。いずれにしても、保守が県政を奪還するためには、よほど景気が悪くならない限りは別の方策を考える必要があるということだ。
中国への警戒は皆無
さて、残念ながら玉城デニー氏が当選してしまった状況のもとで、政府与党はどうすべきか。辺野古については、とりあえず移転を急ぐのが正しいと思う。本当に現在の案がベストかどうか疑問はあるのだが、いまから仕切り直したら普天間の危険な状態を何十年か解消できないし、那覇に近く開発価値のある普天間基地の跡地利用もできない。
それに、これは大事なところだが、中国の習近平氏が2012年に総書記に選出されて以来、対外膨張路線に傾き、軍備拡張を進めているなかで、沖縄の米軍基地機能を後退させるのは、およそ国際的な常識に沿う対応でなくなってしまった。
それにもかかわらず、玉城陣営は「イデオロギーより(沖縄としての)アイデンティティ」とか気なスローガンを掲げていたが、そのアイデンティティはもっぱらヤマトに対してのもので、世界中がおののいている中国への警戒は皆無だった。
私など、「沖縄が中国人に乗っ取られる日」などというブログを書いたら沖縄でもかなり話題になったのだが、これをデマと玉城陣営の立派な学者などが批判した。しかし、若い人には一定の理解を得たのが希望だ。このあたりは、また稿を改めて書きたいと思っている。
ただ、沖縄に基地を押しつけているという印象は解消する努力が必要だ。私はかねてより、知事会で沖縄以外の46都道府県の知事は、政府と米軍が沖縄からの基地機能移転が可能だとして提案したら無条件で引き受けるという決議をすべきだ、と提案している。それが沖縄の人々への最低限のモラルだと思う。反対するとしても、いったん移転を受け入れてから再移転を要求する形にすべきだ。
そしてもうひとつ、安倍内閣に注文をつけておくと、竹下派的なやり方がいいとは思わないが、やはりもう少し沖縄県民の情に訴える努力は必要だ。なにしろ、内閣支持率は沖縄では20パーセント程度。本土の半分くらいしかないのである。