玉城デニー知事当選はアベノミクスの恩恵|八幡和郎

玉城デニー知事当選はアベノミクスの恩恵|八幡和郎

翁長雄志前知事の死去に伴う沖縄県知事選挙は、翁長氏の後継候補だった玉城デニー(前代議士)が、自民・公明・維新などが推す佐喜眞淳(前宜野湾市長)を破って当選した。 玉城氏が55パーセントで佐喜眞氏とはそれなりの差ともいえるが、選挙戦の初めの頃は65パーセントと35パーセントといわれていたから、当初の劣勢をよく挽回したが、逆転するには時間が足りなかったというべきだ。


経済が争点とならず

玉城氏が当選したのは、アベノミクスのお陰での好景気がゆえに経済振興が保守側の武器にならなかったことがある。玉城デニー氏は当選の弁で、「順調な経済をこれからもしっかりと伸ばしていく」と言ったが、いまの沖縄の好景気は翁長氏の功績ではまったくなく、アベノミクスのおかげで人手不足なのである。アベノミクスの恩恵をもっとも受けたがゆえに、それが原因で知事選で敗北したのでは皮肉だ。

これまで保守が勝ったのは、だいたい経済不況や失業が原因だった。とくに語りぐさなのは、革新の大田昌秀知事を保守の稲嶺惠一候補が破った1998年の知事選挙で、このときは「9.2パーセント」という失業率をポスターなどに掲げて稲嶺陣営は戦い、見事な勝利を収めた。それがいまでは3.3パーセントという低水準で、本土ともそれほど大きな差ではないのである。

米マスターカードが9月末に発表した「2018年度世界渡航先ランキング」によると、過去8年間の渡航者数の成長率を比較する「急成長渡航先ランキング」で、世界のトップは沖縄だったという(2位は京都、3位は大阪)。

自民党が公共事業確保のために佐喜眞氏にと呼びかけても、「民間の仕事で手一杯で公共事業は欲しいと思わない」と言われたケースもあった。このあたりは、菅官房長官らが辺野古についてこわもての強硬策に出る一方、沖縄振興策は予算を少しカットするくらいに留めたのが裏目に出たともいえる。いずれにしても、保守が県政を奪還するためには、よほど景気が悪くならない限りは別の方策を考える必要があるということだ。

中国への警戒は皆無

さて、残念ながら玉城デニー氏が当選してしまった状況のもとで、政府与党はどうすべきか。辺野古については、とりあえず移転を急ぐのが正しいと思う。本当に現在の案がベストかどうか疑問はあるのだが、いまから仕切り直したら普天間の危険な状態を何十年か解消できないし、那覇に近く開発価値のある普天間基地の跡地利用もできない。

それに、これは大事なところだが、中国の習近平氏が2012年に総書記に選出されて以来、対外膨張路線に傾き、軍備拡張を進めているなかで、沖縄の米軍基地機能を後退させるのは、およそ国際的な常識に沿う対応でなくなってしまった。

それにもかかわらず、玉城陣営は「イデオロギーより(沖縄としての)アイデンティティ」とか気なスローガンを掲げていたが、そのアイデンティティはもっぱらヤマトに対してのもので、世界中がおののいている中国への警戒は皆無だった。

私など、「沖縄が中国人に乗っ取られる日」などというブログを書いたら沖縄でもかなり話題になったのだが、これをデマと玉城陣営の立派な学者などが批判した。しかし、若い人には一定の理解を得たのが希望だ。このあたりは、また稿を改めて書きたいと思っている。

ただ、沖縄に基地を押しつけているという印象は解消する努力が必要だ。私はかねてより、知事会で沖縄以外の46都道府県の知事は、政府と米軍が沖縄からの基地機能移転が可能だとして提案したら無条件で引き受けるという決議をすべきだ、と提案している。それが沖縄の人々への最低限のモラルだと思う。反対するとしても、いったん移転を受け入れてから再移転を要求する形にすべきだ。

そしてもうひとつ、安倍内閣に注文をつけておくと、竹下派的なやり方がいいとは思わないが、やはりもう少し沖縄県民の情に訴える努力は必要だ。なにしろ、内閣支持率は沖縄では20パーセント程度。本土の半分くらいしかないのである。

著者略歴

関連する投稿


我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

衆院選が終わった。自民党は過半数を割る大敗で191議席となった。公明党も24議席となり連立与党でも215議席、与党系無所属議員を加えても221議席で、過半数の233議席に12議席も及ばなかった――。


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


なぜ自民党総裁選で青山繁晴さんを支援するのか|和田政宗

なぜ自民党総裁選で青山繁晴さんを支援するのか|和田政宗

9月12日(木)に告示され、27日(金)に開票が行われる自民党総裁選。私が選対事務局長を務める青山繁晴さんは、8月23日に記者会見を行った。しっかりと推薦人20人を9月12日に確定できるよう頑張りたい。(写真提供/産経新聞社)


安倍元総理の命日にあたり、その功績を改めて記す|和田政宗

安倍元総理の命日にあたり、その功績を改めて記す|和田政宗

本日は安倍晋三元総理の命日。安倍元総理が凶弾に倒れてから2年を迎えた。改めてご冥福をお祈りするとともに、非道な暗殺を満身の怒りをもって非難する。


辺野古の反基地運動には極左暴力集団が入り込んでいる|和田政宗

辺野古の反基地運動には極左暴力集団が入り込んでいる|和田政宗

6月28日の午前10時過ぎ沖縄県名護市安和で、辺野古の反基地運動により警備員に死者が出てしまった。反基地運動の活動家たちは、これまでも走行しようとするダンプカーの下に入り込むなど危険な行為を繰り返していた。そして、今回、それを制止しようとした警備員が亡くなったのである――。


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。