現役の海上自衛官からは「北朝鮮が弾道ミサイルを発射するかもしれないとの情報に基づいて緊急出港し、数ヶ月洋上で勤務して帰宅したら、布団はカビだらけ」といった生の声を聞く。本来であれば修理や整備、そして教育・訓練を経て実任務に配備されるところ、余裕がないために教育・訓練もそこそこに緊急出港する艦が少なくないのだ。
2017年に米海軍のイージス艦が連続して3件、民間船との衝突事故や座礁事故を起こした。事故の責任で解任された元第7艦隊司令官アーコイン退役海軍中将は、米海軍協会誌「プロシーディングス」2018年6月号に、人員と即応態勢の欠如が連続事故の原因であったことを記述している。
イージス・アショアの計画停止で、敵ミサイル迎撃の核となるイージス艦の乗員の負担が増せば、人員がただでさえ不足していることに加えて退職者が次々と出て、即応態勢にヒビが入るであろう。ブースターが落下する問題と国の安全保障とどちらが大切か、政治家に重い問いが突き付けられている。(2020.06.22国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
著者略歴
国基研企画委員兼研究委員。1948年生まれ。1970年防衛大学校卒、米海軍兵学校交換教官、ゆうぐも艦長、スタンフォード大学国際安全保障軍備管理研究所客員研究員、米国防大学卒(国家資源戦略修士取得)、第1・64護衛隊司令、在米日本大使館国防武官、統合幕僚学校長を経て情報本部長(約3年)、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院博士課程終了(国際関係論博士取得)、2005年定年退官(海将)。防衛大学校教授兼政策研究大学院大学安全保障・国際問題博士課程連携教授、2013年第二の定年退官。現在国家基本問題研究所企画委員。 著書に『同盟国としての米国』など。