統一部曰く、「殺人を犯した脱北者3人が北朝鮮の金策港に戻り、1人は慈江道に行くために陸地に下りて捕まり、あとの2人は船に乗って逃げた」という。ところが、この情報がどのように確認されたものなのかを金錬鉄は一切説明していない。
金錬鉄の言葉が事実だとすれば、北朝鮮当局はなぜ逃げた2人が日本海に来るまで放っておいたのか。北朝鮮は犯罪行為で指名手配された容疑者には全軍、全民が合同捜索隊を組織して捕まえるまで追跡を繰り広げるということは、韓国に逃れて来た約3万5000人の脱北者なら、あまりにもよく知っている事実である。ましてや、16人を殺した凶悪殺人犯を韓国に逃げるまで放っておいた? 金錬鉄の説明を聞いていると、まるで北朝鮮の言い分をそのまま伝えているような印象を受けるのは私だけではないはずだ。
北朝鮮の殺人独裁政権は、他の国々にも、脱北者たちに対して殺人犯の汚名を着せ、送還を要求する。脱北者がいる国の公安機関に「あいつは北朝鮮で人を殺した殺人者だ」として、本国に送還させるよう迫るのだ。これは北朝鮮の常套手段であり、韓国内でも広く知られている。
世界に報じられた朝鮮人民軍運転兵の脱北
2017年11月に脱北した元兵士の呉青成氏をご存じの方も多いだろう。朝鮮人民軍の運転兵として勤務していた呉青成氏は板門店で逃走を図り、銃撃を受けて瀕死の重傷を負った。その時の映像は日本でも広く放送されたと聞く。もちろん、いまでも YouTube などで見ることができる。
その後、北朝鮮の殺人独裁政権は何と言っているか。「呉青成は北朝鮮で殺人を犯して逃げた」と、証拠を一切提示することなく主張し続けている。これに対して、呉青成氏はそれを完全否定、「私は殺人など一切犯していない」と海外のインタビューでも明確に証言している。これが北朝鮮の手口なのだ。