名物対談「蒟蒻問答」伝説の第1回を完全再録!|堤堯・久保絋之

名物対談「蒟蒻問答」伝説の第1回を完全再録!|堤堯・久保絋之

元『文藝春秋』編集長・堤堯氏と元産経新聞論説委員・久保絋之氏がリアルタイムの話題を丁々発止に、時にマジ喧嘩にまで発展する本誌名物連載対談「蒟蒻問答」、その第1回を完全再録! 2006年2月に行われたもので、タイトルは「紀子さまご懐妊は天の啓示だよ」。紀子さまご懐妊を中心に、女性・女系天皇の話題にまで斬りこみ、令和の時代にも通じる分析・論考です。


小泉はなぜ急ぐのか

久保 そうです。彼は皇室については、「全体的一」(=支配者)と「個別的多」(国民)との矛盾対立を止揚する、「無の場所」と意味付けている。それを「矛盾的自己同一」と呼んだんです。大衆と権力とか、国民のあいだの対立とかを解決する場所として、無の場所があると。それが天皇制だと。

これは上山春平なんかが指摘しているんですが、中国から天帝という思想が入ってきたときに、「古事記」と「日本書紀」のなかで論理をすり替えていったんです。どういうふうにというと、万世一系というのは天皇が天帝でもあるわけです。そうすると、天帝に天皇は反することはない。だって、二つとも一緒なんだから。

それにたいして、中国とか韓国では、天皇を「日帝」とか「日王」と呼んで、絶対に天皇とは言わないでしょう。そういうと、天の普遍を僭称しているとされるからです。

中国は欧米的な王権の構造に似たものを持っているので、皇帝を超えるものとしての天帝を諒解している。だから皇帝に何かあればそれを取り替えちゃうことができると発想する。

日本は変えられるかというと、そうはならない。そこが日本の巧みな曖昧さといえばそうなんですが。河合隼雄の「中空均衡型構造論」でいう、「三貴子(トライアッド)」(=アマテラス・ツクヨミ・スサノヲの三神)の基本構造がじつは日本の構造であって、スサノヲの位置は西田の「無の場所」と同じです。

竹内好のいう「一木一草の天皇制」とは、トライアッドを例にとれば竹下登とか小渕恵三、あるいは村山富市のように、口の悪い小沢一郎が「ミコシは軽くてパアがいい」と言い放った歴代政権の権力構造まで「無為の中心」が刺し貫かれているということなのです。 

 今度のご懐妊で、小泉は皇室典範改正を引っ込めた。Uターンした小泉には、その夜のうちに何かがあったと見るべきでだろうね。誰かが智恵をつけた。姉の信子の入れ知恵かな。彼って、姉の言うことしか聞かないから。

なぜ、小泉は改正案の提出を急ぐのか。幹事長の武部勤が、天皇の御意向だと放言した。有識者会議の答申──長子優先・女系天皇容認が今上天皇の御意向だとすれば、これは俺は「ヴァイニング」効果だと思う。クエーカー教徒のエリザベス・ヴァイニング女史が今上天皇の家庭教師をした、その結果じゃないか。

つまりは一神教か多神教かという話だ。日本は多神教なのに、GHQは一神教を植えつけようとした。マッカーサーはバイブルを一千万冊刷って日本全土に配ろうとした。日本には日本の長い歴史がある。もしかりに、今上天皇が「答申」をよしとする御意向を持たれているとしたら、それはヴァイニング効果というしかないな。

久保 喩えは悪いが、ネス湖の怪獣伝説ってあるでしょう。仮に実在しているとしても、生物学的に繁殖可能な、つまり再生産を繰り返せる一定の個体数がなければ、天皇は絶えてしまう。

マッカーサーは天皇・国体を守ってくれたといまでも日本人の間で評価は高いのですが、じつはマッカーサーの狡知(策略的知性)というのは、そんな生易しいものではない。その最たるものが皇族制度を廃止したことです。つまり天皇は残したが、その再生産装置の重要な部分は断った、ということなのです。

皇室典範改正は、憲法改正も含めて、上っ面じゃない国家とか根っこの部分を交えて議論がすすんでくれば、初めて意味を持ってくるんですよ。単に天皇を象徴においておけばいいなんて無責任な話じゃない。そうでない、日本文化の根っこの部分から議論してこそ、初めて出発点に立つんじゃないかと思ってます。

 三島(由紀夫)さんは言っていたよ、憲法改正ってのは単なる第九条の問題じゃないんだと。第一条、第二条の論理矛盾を突いて、天皇をどうするかという話だとも論じた。憲法九条についても、下手な改正はいよいよ「アメリカの好餌となり、自立はさらに失われる」、それを避けろというのが彼の遺言なんだよ。

久保 そうですよ、これは単に皇室典範改正問題だけじゃないってんですよ。遡って言えば、明治憲法や教育勅語、皇室典範は、井上毅が草案起草していますよね。

そのときにも、女性天皇を認めるという話になったんですが、彼はみんなが女性天皇に賛成と言ったとき、それでいいのかと、夫の子供が引き継いだら皇統が絶えるということを声高に言うわけでしょう。それで一気に会議が引っくり返って、憲法草案の骨格や旧皇室典範が決まっていくんです。井上のように言ってのけてやってのける人間がいまいるのかしら。

「頑固」と「頑質」は違う 

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「勉強ができなくてアタマも悪い」

 小泉はTVで「いま反対している人たちは、愛子様が子供を生んだとき、その方が天皇になれないということを意味しているということをよく解っているんですかねえ」、こう言っている。粗雑だなと思うねぇ。

彼の頭の中では、どうも女性天皇と女系天皇とがごっちゃになっている。解っていない。そもそもハナからお前さんの言っている女系天皇に反対しているんだということが解らない。 

久保 世の中に勉強はできないけど、頭のいい奴ってのはいるんですが、小泉は「勉強ができなくてアタマも悪い」って『パンツをはいたサル』のセンセイ(栗本慎一郎氏)は言ってました。彼は慶應大学で小泉のご学友だったそうです。

 天啓をまともに受け止められないやつは、国を束ねる資格もセンスもない。やはり引かなきゃ。

久保 彼は頑固が美徳だと思っているんですよ。滑稽です。

司馬遼太郎が、吉田松陰を評した話の中で、「頑固」と「頑質」というのは違うんだと言ってます。「頑質」というのは、ただやたらに何でもかんでも拘りつづけることを言う。吉田松陰は頑固だったけれど、頑質ではなかったと。

小泉は頑質ですね。まったく状況も見えずに、物事に執着しちゃうんだな。吉田茂は頑固だった、おれもそれに列したいなんて言ってる。お笑いなんだけどさ、道化がそのまま権力の表舞台に居座ったのではねえ。

日本の権力構造が天皇制でも行政でも、崩れはじめている。そもそも天皇が祀る五穀豊穣の神である「産霊神」は、生産力の神なんですが、このところ皇室に男子が恵まれないのは、どこかで日本の少子化とパラレルに連動していると思います。

伊邪那岐命が、黄泉の国(死後の世界)に行ってしまった伊邪那美命に会いに行ったものの、夫婦喧嘩をする羽目になってしまった。その別れ際に、伊邪那美命が「私は、あんたの作った人を一日に千人殺すからね」と言ったのにたいして、伊邪那岐命が、「かまわん、俺は一日に千五百人作るから」と言い返したといいます。

これにより一日五百人ずつ人口が増えるようになった。人口増加を寿ぐことの起源がここにあるというのですが、子どもが生まれることは古来より国家のエネルギーだったんですよ。

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