名物対談「蒟蒻問答」伝説の第1回を完全再録!|堤堯・久保絋之

名物対談「蒟蒻問答」伝説の第1回を完全再録!|堤堯・久保絋之

元『文藝春秋』編集長・堤堯氏と元産経新聞論説委員・久保絋之氏がリアルタイムの話題を丁々発止に、時にマジ喧嘩にまで発展する本誌名物連載対談「蒟蒻問答」、その第1回を完全再録! 2006年2月に行われたもので、タイトルは「紀子さまご懐妊は天の啓示だよ」。紀子さまご懐妊を中心に、女性・女系天皇の話題にまで斬りこみ、令和の時代にも通じる分析・論考です。


立花隆のY染色体論

 世の中ってのはね、男と女と両方いる。片方だけでは駄目なんだ。両方あいまって成り立っている。

天皇は万世一系、男系天皇を縦軸にしているけど、それはフィクション(擬制)なんだ。だって神武天皇のDNAが今に至っているかなんて、そんなこと誰も証明できない。証明するんだったら、各地の天皇陵を掘り返して、DNAを調べるしかない。

ただ、天皇は万世一系として、Y染色体が連綿とつながっていると国の内外が思っている。世界最古の家系であると思っている。だからこそ、外国のセレブは皇居を訪れて、畏敬の念を現すわけです。

立花隆が自身のブログ(「メディアソシオ・ポリティクス」*編集注:現在閉鎖)で詳しく書いているが、要するに、神武天皇から今上天皇までそれぞれ二人の子供を作ったと仮定すれば、2、4、7、16、32……と世代の数だけ倍々ゲームで子孫は増える。仮に100代続いたとしても、とんでもない数字になる。

いろんな条件をつけての割り算、引き算をしていったとしても、神武天皇のY染色体を受け継ぐ人々が、今の日本にゴロゴロいるはずだと彼は言うんだね。そんなことを言ったら、誰だって天皇の血を引いているといえてしまう。俺だって清和源氏で清和天皇の血を引いていると、オヤジから教わった。

遺伝子学的か生物学的には、遍くDNAは拡散しているとしても、日本の男系天皇はY軸としてずっとつながってきていて、女性天皇が8人もでたけれど、なんとか遣り繰りしてY軸を保とうとして工夫してきたのが、日本の皇室だと。そう、日本の内外は認識している。

その認識こそが大事なんだ。幻想といえば幻想だよ、フィクションだよ。でも国を束ねるにあたって、フィクションてのは大事だ。それを否定したら、とたんにマルキシズムになる。

久保 立花はネズミ算と取り違えているんじゃないの。立花理論からいえば、遺伝子学的にはアフリカのアダムとイブにまでつながっちゃう。ヒトゲノムを辿っていけば、畢竟アフリカのご先祖様につながるわけです。そこから人類が発祥しているんですから。それを言っちゃあ、お仕舞いよ。

 今度の秋篠宮の紀子さんの懐妊は、早い話、天の啓示と受け取るべきだよ。「いいか、お前ら、皇位継承の変更の論議なんて止めろ」というね。

だって時あたかも、皇室典範改正案が国会で審議されている最中にですよ、「ご懐妊しました」と出るということはだね、これは神事以外のなにものでもない。それを小泉首相は虚心坦懐に受け止めなきゃいけない。なのに、衆議院で質問されたら「いや私は粛々として提出します」と言った。こいつは、天の啓示にすら思い至らない。5年の政権で思い上がっているんですよ。

平成南北朝の幕開きか

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2006年9月6日、悠仁親王をご出産され、退院された紀子さまと秋篠宮さま。

久保 それにしても、秋篠宮夫妻は、新年の歌会始の儀で、お二人揃ってコウノトリの歌を詠まれたでしょう。

「人々が笑みを湛へて見送りしこふのとり今空に羽ばたく 」(秋篠宮殿下)
「飛びたちて大空にまふこふのとり仰ぎてをれば笑み栄えくる」(紀子様)

今年のお題は「笑み」だそうで、それが実現したわけですよ。時あたかも、国会では女性・女系天皇実現を策する皇室典範改正論議で、賛否二分する状況でしょう。満を持したというか、天の啓示というにはギラギラしすぎていて、どこか端倪すべからざるものを感じませんか。

僕は、いまの皇室の事情を鑑みると、個人的には簡単には寿げないんですがね。ヘタをすると、平成南北朝の幕が切って落とされるような危うさ、というか……。

 壬申の乱とでも?

久保 いみじくも西部邁が言っていますが、天皇というのは国民精神における「聖と俗」の境界線上に位置する。世俗的な規範を示した憲法でいえば、祭祀王及び非常事態における文化的体験の発動という形で「上に突き抜け、下に突き抜け」た存在だと。天皇制の構造というのは、両義的な側面、つまり男性的なものと女性的なものが内在しているという憲法の解釈を明快に言ったのは彼だけですよ。

 そんなの当たり前じゃない。

久保 男性的なものを強調してそれしか認めないと、日本の近代思想・法体系の中に、都合よくぴったり当てはまっちゃうんです。明治以降の日本の近代化の過程で、そういう位置に天皇を据えたことと、いま男系論者が言っていることとは、何も変わらないじゃないか。

日本社会における「女性的なもの」というものに見向きもしていないわけですよ。天皇権力における、女性的なものというのにね、無頓着なんだ。それでは、日本文化の真髄は理解できないんじゃないかと。欧米的な「原理としての父性」は日本文化の中に存在し得ないんですから。

そういう豊饒な可能性まで考えてみたときに、男系天皇であれば万世一系で日本的なものが保たれるというのは、ちょっと安易すぎやしないかと思うんですよね。

 西部論文は、男系だろうがなんだろうが、天皇ないし天皇家というものを保つ、評価する、その存在理由をよくよく考えることが大事だと書いている。いまさら何を言っているんだ、当たり前の話じゃないか。

久保 その論は、彼の憲法論のなかの一つですよ。ちなみに、天皇制という概念はもともと左翼が言い出したものでしょう。

 西部論文は当たり前のことを当たり前の言葉で、さも新しいことのようにいっている。もう少し気の効いたことを言え。オレが編集者ならあんな論文載せないよ。

久保 彼は自分の憲法論のなかで、天皇というのは多数決原理でどうこうできるような、つまり国民主権がどうこうできるような位置づけではないと言ってるんです。もし多数決の原理が通用するなら、天皇制は廃絶するのかといえばできてしまう。そんなものじゃないだろうと。

だから、皇室典範でも、本来は議会がああだこうだ言える話じゃない。戦前の皇室典範については、天皇が直接言及するわけでしょう。憲法とほとんど同列にある法律なんですよ。だから今日だって、皇室典範を議会が簡単に決めていい話じゃないと彼は言ったわけです。それは読売新聞改正案や自民党案よりは、ずいぶん優れたものだと思いますよ。

 石原慎太郎が産経新聞の連載のなかで、いまの天皇制と類似するものを探せば、「古代エジプトのファラオに例を見ようが」と言っていて、ちょっと違うかなとも思うけど、天皇というのは、もともと多数決の論理には馴染まない。多数決で論じること自体がおかしい。

天皇あるいは天皇制の何たるかというのは、普段は五穀豊穣、国家安泰を祈る神官の代表だけれども、日本が危機に瀕したときに初めてその存在意義が解る。そういう存在だと思う。これは外国から見ればまったく稀有な存在で、日本民族がずっと、意識的にしろ無意識的にしろ抱えてきた、そういうものですよ。議会の青票白票云々という話じゃない。だからこそ担保しておいたほうがいいんじゃないか。

久保 英訳すると「エンペラー」って表現するのはおかしい。中国ですと、帝の上に天帝というものがあって、民草は天との契約だと、山本さんはいうんですよ。「天の思想」といってもいい。

その伝でいえば、天皇の上に天帝があってね、天帝に天皇が反するときには、天皇を変えてもいいってのが、シナの発想なんです。易姓革命というのはこのことで、まさに「姓」を変えちゃうことでしょう。

戦前、哲学者の西田幾多郎が『日本文化の問題』(岩波新書)で書いているんですが、社会形態が行き詰った場合には、シナでは易姓革命が起こった。一種の下剋上ですね。小泉はいままさに下剋上をやっているわけです。

日本では、社会形態が行き詰るときには、革命とならずに皇室に返る。復古するんだというんですね。ついでだけど、西田は天皇という言葉を使わず、専ら皇室という言葉を多用してます。

しかし復古するとは同時に新たなる世界に踏み出すということでもある。そして新たな社会というか制度は皇室から始まるといって、その最たるものが明治維新だといっている。

 見事な「変革の論理」だね。

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