名物対談「蒟蒻問答」伝説の第1回を完全再録!|堤堯・久保絋之

名物対談「蒟蒻問答」伝説の第1回を完全再録!|堤堯・久保絋之

元『文藝春秋』編集長・堤堯氏と元産経新聞論説委員・久保絋之氏がリアルタイムの話題を丁々発止に、時にマジ喧嘩にまで発展する本誌名物連載対談「蒟蒻問答」、その第1回を完全再録! 2006年2月に行われたもので、タイトルは「紀子さまご懐妊は天の啓示だよ」。紀子さまご懐妊を中心に、女性・女系天皇の話題にまで斬りこみ、令和の時代にも通じる分析・論考です。


「国家は元気」であるべきであり、 「元気は正義」だ

 山口昌子さん(産経新聞パリ支局長)が書いていたけれど(「欧州の『人口は国力』意識」産経新聞2006年2月4日付)、「人口は国力」だと。子供が生まれないというのは、国家のインポテンツ状態だ。「国家は元気」であるべきなのに。

「元気は正義」と誰かが言った。いいかい、国を束ねる者は、男と女が安心して枕を並べられる環境をつくることなんだよ。これが政治の要諦だ。それ以外にない。五穀豊穣ってのは、元来そういう意味なんだから。

久保 皇室のエネルギーが冷える、つまり子どもが生まれないのは、国家の廃れる前兆ですよ。紀子様のご懐妊で、皇室のエネルギーが復活しますかね。

 家元だって、企業だって、存続していくのは大変ですよ。自らのY軸を確保していくのは。

久保 秋篠宮様は、礼宮時代、たしか18歳くらいの記者会見で、「私は三笠宮智寛仁殿下や高松宮のような役回りをしたい」と言っておられる。高松宮もヒゲの殿下といわれた寛仁殿下も明らかにトリックスターでね、皇室の摩訶不思議な力学関係のなかで、トリッキーな役回りで昭和天皇をバックアップしていった。

弱冠十八歳の若者が、そうした「王権と道化」との相互補完関係を理解していて、堂々と記者会見で自分もそういう「放浪のプリンス」の役回りを引き受けたいと述べた。なかなかです。皇室という制度がそう言わせているのです。

天皇制をなくすのには、話題にしなきゃいい、なんて吉本隆明は言いましたね。ということは、いま話題になっているということは、天皇家の活性化につながる。 

 秋篠宮家は一気に存在感を増したからね。

久保 その意味では圧倒的でしょう。しかし一言言わせてもらうならば、雅子皇太子妃への惻隠の情に欠けるというか、北一輝が言った皇室の「優温閑雅」の気風からはみだしたように見受けられるのは残念ですがね。

 所詮、国家は一つの生命体ですよ。生物学的に考えると、スペンサーの社会契約説とダーウィンの『種の起源』――生存競争なんだ。スペンサーのあとにマルキシズムが輸入された。しかしマルクスはごらんのザマで、ここでもう一回契約説に帰ってきたんじゃないかな。

昭和天皇は生物学者で、天皇機関説問題が起こったとき、「器官でよいではないか」といった。国家の頭になぞらえたわけだ。人間の身体だって、頭だけじゃなく下半身を論じなければ片手落ちだ。それではいかんというのが戦後日本だった。

皆が望んでいるのは男子だが……

久保 スペンサーの社会進化論はどこかで白人優越論につながっていくものですが、明治期の日本ではずいぶん持て囃されましたよね。いま猪口大臣が必死こいて少子化云々と言ってますが、そんな問題じゃあなくて、少子化というのは、まさに天皇の後継をどうするかという問題に直結しているんですよ。

「元気は正義」。それが生物学。

久保 そんな元気がこの国にありますかね。中国だって韓国だって、勃興期の国家はナショナリズムのプラス面が働くのです。日本だって明治期は論客はみんな「国の元気」といったものですが……。

 でもみんなが「ご懐妊よかったですね、おめでとうございます」と祝っている。この反応はとても健全なんだよ。その反応のうちに、いろんな思いを込めている人も少なからずいる。みんな今秋が楽しみじゃないか。

それでもって、したり顔の論者は言う、生まれるのは男か女か。それにこだわる必要はないと。何をバカなことを。みんなが望んでいるのは、男子ですよ。日本男子。

それにしても、一部メディアで雅子さんの離婚なんかも取上げられるようになってきた。タブーじゃなくなってきた。まるでイギリス王室みたいになってきた。日本ならではの万世一系が、ヨーロッパの王室と同じようなレベルで論じられるようになってきちゃった。憂慮に耐えない。 

久保 皇室伝統の解体がいろんなところではじまっている。それは、単に女系天皇論だけでなくです。

さきほどの稲作が万世一系の思想に合致しているという話でも、すでにコメは輸入自由化になっている。農家は後継問題がある。昭和天皇が崩御される前に「コメは大丈夫か」とおっしゃられたというのは、保田輿重郎のいう神武天皇肇国の精神の根底からの御声がわれわれには聴こえなくなってきていることを危惧されていたというふうにもとれる。

小泉内閣が進める規制緩和、市場主義、自由万能主義の経済。まさに小泉内閣は、市場主義の中に皇室を投げ込むようなことをしている。皇室はグローバル・スタンダードのなかに融解していく。一「地球市民」になっていく。 

 地球市民なんて、とどのつまりは無国籍ってことだ。外国の空港で、エンバケーションカード(入国管理に提出する)に、「地球市民」と記入したら、一昨日来いと放り出される。世界の誰も相手にしてくれない。ひたすらそこに突き進んでいるのが小泉改革だよ。日本のフィリピン化といってもいい。

司馬遼太郎さんがこう言った。「フィリピンはどないもならん国やなあ」。スペインとアメリカに二回も占領されて、骨抜きどころか何もない、完全に融解している。日本もいずれそういう国になりかねないとね。

久保 これから何十年後かに、世界を彷徨う日本民族ってのが出現するわけだ。ホリエモン的無国籍人、マネーゲームに長けた国境なき市民だけが幅を利かす。それが天皇制解体とパラレルに進行している。

モーゼはイスラエルの民を率いて砂漠を四十年間も彷徨うのですが、彼らには絶対神がおり、いつの日か乳と蜜の流れる地にたどり着けると信じ続けることが可能だった。しかし三島由紀夫のいうように、日本の文化を文化たらしめている究極の根拠である、文化概念としての天皇を失った一億の彷徨える日本人には、いったい何があるんですかねえ。

 いいだ・ももさんは『核を創る思想』という本を書いた。核と書いて、「サネ」と読む。その「核」とは何か。いいださんとは立場が逆かもしれないが、それは天皇だ。それを小泉が溶かそうとしている。日本にとって何の益があるのかと問いたい。あの核がいかに有効だったかということを、歴史を遡ってよくよく勉強してみろといいたい。

対談者略歴

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