庁舎内で勧誘・配達・集金が行われていることについて、懸念を抱く声は地元住民からも上がっている。たとえば配達についてだが、誰が配達するのかは自治体によってさまざまで、赤旗販売所の配達員が行うこともあれば、共産党議員が行うこともある。ある自治体では、職員のなかの労働組合員が配っていたりする。
いずれにしても、購読している職員のデスクまで届ける形がほとんどだ。デスクの上には、さまざまな個人情報や、一般には公開されない文書などが置いてある。守秘義務を課せられていない人が近づくとなれば、セキュリティ上の懸念が生じる。
東京都世田谷区では17年11月、区民の女性がこれらのことを懸念し、区議会に陳情を提出した。女性は陳情を出すに至った経緯について、友人が区役所を訪れた際に職員の机上に「赤旗」が置いてあったのを見たことがきっかけだと説明した。
また、労働組合に加入している区職員が早朝に職員のデスクへ配達し集金を行っていることや、昇任時に勧誘があり、断り切れず購読しているケースがあることを知ったという。陳情では、勧誘・配達・集金や購読の強制が行われないよう管理を徹底することなどを求めた。
これに関して、世田谷区議会の企画総務常任委員会で、共産党区議は「思想・良心の自由」の観点から問題はないと主張したが、会派を超えて多くの区議から批判が噴出した。板井斎区議(公明)が、配達している職員が販売店から報酬を受け取っている可能性を指摘し、これを受けて区は報酬に関する調査と職員へのヒアリングを行った。
区から報告を受けた陳情者の女性によると、配達していた職員と販売店の間に雇用契約は結ばれていないので賃金は発生していない、パワハラ的な勧誘が行われたという声はないとの回答だった。この陳情については、一応「問題なし」で片づけられた形だが、女性は「しっくりこない。公務員としての中立性はどうなっているのか、市民感情として疑問もある」と納得がいかない様子だ。
前述したように、「赤旗」は共産党の機関紙なので党の宣伝の役割も果たす。選挙期間になれば、候補者の名前や写真が掲載される。職員の机の上に「赤旗」だけが置いてあれば、住民から政治的中立性を疑われても仕方がない。世田谷区が住民の不安を拭い去ることができたのかは疑問だ。
自治体ごとにかなりの温度差がある
一方、庁舎内での購読が禁止されるに至った自治体も存在する。神奈川県鎌倉市や福岡県行橋市では、議員の一般質問などをきっかけに庁舎内での勧誘・配達・集金が禁止になった。また、これらの動きを受けて、東京都中野区などでは、庁舎内で政党機関紙を購読することを禁止する通達が自治体側から発せられている。
比較的最近の事例では、2018年6月、東京都狛江市議会の総務文教委員会で、職員の政党機関紙の購読状況に関して調査と問題の是正を求める陳情が審査された。
市議からの批判も受け、市は庁舎内での「赤旗」の勧誘・配達・集金を禁止する意向を示し、「職員が(市民から)政治的中立性を疑われる可能性があるならば、庁舎内での勧誘・配達・集金は原則として禁止していきたい」 「(個人的に購読する場合は)自宅への配達が好ましい」と答弁。現在は、庁舎内で配達などが行われることはなくなった。
また、集金についても問題視する声は多い。地方自治体では庁舎の保全や秩序維持のため、自治体ごとに庁舎管理規則が定められており、物品の販売や勧誘などについては事前に許可を得る必要があるとされている。ただ、政党機関紙の勧誘・配達・集金についての対応には、自治体ごとにかなりの温度差がある。
政党機関紙の配達は「弁当の注文のように受動的な配達行為」であり、そもそも許可は必要ないと開き直る自治体もある。他方、神奈川県藤沢市は当初、議員による配達などの行為は市庁舎管理規則の適用対象外と判断したが、市民から昨年陳情が出され、賛成多数で採決。その後、執務室内への職員以外の立ち入りなどが制限された。
都庁で異様に多い配達員
一方、東京都は配達員に「営利行為・立ち入り許可証」を発行しているが、全国で他に発行している自治体はなく、異例の措置だ。この許可証はほかの機関紙の配達員にも同様に発行されているが、なぜかここでも「赤旗」配達員の数だけが圧倒的に多い。18年度時点では「公明新聞」の場合、公費での購読部数15部に対して許可証が発行されていた配達員が1人だ。一方、「赤旗」は35部(日曜版、都版を含む)に対し10人だ。19年度も、購読部数は36部とほぼ変わっていない。
いくら都庁が広いといっても、36部なら配達や集金は1人で十分だろう。これを本庁舎に8人、議事堂に2人が現在も担当しているのだ。詳細については調査中だが、公費ではなく都庁内で個人購読している職員らに配達している可能性が大きい。その数は1000部近くに上るとみられる。