大きなクリーム色のオス猫とは、数ヶ月前から顔なじみだった。私が外から帰ってきたときなどにしばしば、うちの敷地内で出くわしていたのだ。あっ、と足を止めた私に気づ
いてもまったく動じず、むしろじっとこっちを見て、それから悠々と去っていく。両頬がぷっくりと膨れた大きな顔をしていて、堂々たるオスであることはすぐにわかった。その長いシッポの下を確かめるまでもなく。
もしかしたらあの頃から、私は品定めされていたのかもしれない。
庭の物置で子猫が生まれていることに気がついたのは、5月の連休明けである。園芸用の肥料やら植木鉢やらを放り込んだまま、長いあいだ整理整頓もしていなかったその奥に、ちょうど良い暗がりの空間ができていたのに違いない。私が初めて見たときはその奥の方から、4匹の子猫がはい出してきているところだった。もう目は開いていて、私は急いでスマホを持ってきて写真を撮った。なぜかそのとき、近くにはパパ猫もママ猫もいなかった。まだ油断していたのだろうか。
すぐにがっちりとガードが固くなったので、その後はまったく近づけない。庭木の枝越しにそっとのぞこうとしても、子猫たちにお乳を飲ませているママ猫がキッと顔を上げてこっちをにらむ。サビ柄に近いようなキジトラの、細い小さなメス猫だ。私は遠目で子猫を数えて、良かった4匹いる、と確認するだけで満足しなければならなかった。
あのクリーム色の猫が、物置の前でいつも見張りをしていた。あるときけたたましい声が上がったので窓から顔を出してみると、クリーム色のパパ猫が、同じくらい大きな猫に飛びかかって追い払おうとしていたところだった。うちの近所にまだあんなオス猫もいたのか。
生まれたばかりの子猫が、よそのオス猫に食い殺されることはよくあるのだという。トンビやカラスにとっても格好の餌だ。ヘビにだって狙われるだろう、ネズミよりも小さいのだから。世界は子猫にとって、危険以外のなにものでもない。
ミー、ミーと賑やかな声が響いて、私はまた窓を開けてみた。ママ猫がしなやかな体をさっと躍らせて、どこかへ出かけていった。クリーム色の猫が物置のすきまから中へ入り、まとわりついてくる子猫たちの頭を順番になめてやっていた。
庭のエゴノキが花盛りだった
わっと浮いてきたノミの死骸
「そのころにもう目が開いていたのなら、この子は生まれてひと月半といったところでしょう。でもその月齢にしては小さいですね。420グラムしかない」
子猫を拾い上げた翌朝、いちばんで行った動物病院の先生がそういった。土砂降りの雨が降っていた。私が家のなかに連れて入らなければどうなっていただろう。ずぶ濡れで凍え死んでいただろうか。
そうか、この子は小さいのか、と私は思った。ママ猫があんなにお乳を飲ませていたのに。ママの体が小さいせいなのか、それとも4匹のきょうだいで分けるには十分ではなかったのか。
先生は子猫の右目の上と首筋から、マダニを1匹ずつピンセットでつまみ取った。それから虫駆除剤を全身になすりつけ、子猫の口いっぱいほど大きな黄色い虫下しを飲ませる。採血をしてウィルスチェックも。よくあんな小さな体から血を採ることができるものだ。猫白血病も猫エイズも陰性でホッとする。
さらに翌朝、動物病院の先生の指示通り、風呂場で子猫をシャンプーする。何度すすいでもお湯が茶色い。やっと透明になったと思ったら、今度はノミの死骸がわっと浮いてきた。
「ノミもダニも、うちの庭にいるんですねえ」
衝撃を受けて先生にそういうと、
「当たり前でしょう」
と真顔で返された。
生まれて初めてのおもちゃ

