米国を破壊するトランプの“ラ米化”|上野景文(文明論考家)

米国を破壊するトランプの“ラ米化”|上野景文(文明論考家)

トランプ政権の下で、混迷を極める米国。 彼の目的は、いったい何のか。 トランプを読み解く4つの「別人化」とは――。


④ 「親ロシア化」する米国保守派(背景に、伝統保守派 vs WOKEの文化戦争)                        

8月のアラスカ・サミットでは、トランプ氏のプーチン氏に対する異様なまでの気遣いを見せつけられた。一部には、トランプ氏はプーチン氏に弱みを握られている(ために、ロシアに甘い)との見方すらある。が、真相は藪の中だ。

ただ、トランプ氏は、ロシアには親近感を持つ一方で、米国に「お説教」する西欧のことはあまり好きではないように見受けられる。

この際、両国関係の底流にあるものだけはしかと確認しておくのが良い。米国とロシアの保守派は、文明・文化論の次元では略々波長が合っており、親和性が高いと言う点が大事だ。
 
キリスト教伝統主義をベースとする両国保守派の世界観は、今なお18-19世紀的なものを多分に宿す。両者の「文明時計」の針は100?200年前で止まっているようだ。ロシアに通暁し、ヴァンス副大統領に影響を与えていると言われているシカゴ大学のミア・シャイマー教授の発言が示唆的だ。
 《自分は、19世紀的人間なので、19世紀的なモスクワにいると、気分が落ち着く》
 
更に過激に言えば、文明文化論的観点からと言うことになるが、トランプ氏は19世紀から、プーチン氏は18世紀から、夫々現代に飛び込んで来た「過去の人」であり、その意味で、二人の波長が合ったとしても何ら不思議はない(注4)。
 
ロシアと米国の超保守派を接近させたものは、西欧と米国の双方に根強いリベラル勢力にほかならない。つまり、両国の超保守派は、反WOKと言う点で一致する。
 
すなわち、ロシア正教会は、かねてより、WOKE的なものに満ちた西欧に反発している。
米国の保守派も、NY、シカゴ、カリフォルニアなどに根強いWOKEを目の敵にする。軍事・外交は別として、少なくとも、文明文化論の次元では、両者は「同志」なのだ。

本年2月にミュンヘンで開かれた安全保障会議に参加したヴァンス副大統領は、こう言い放った。
《自分が欧州に関し懸念している脅威は、ロシアからでも中国からでもなく、欧州内部に存在する》
 
要は、米国の伝統保守派にとっては、ロシアは「お友達」、(WOKEに満ちた)西欧は「忌むべき存在」だと言う、どぎつい発言であった。
 
米国保守派とロシアの保守派の接近を示す事例は、他にも少くない。
 
たとえば、トランプ氏の元首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏は、プーチン氏が傾倒する超保守の思想家アレクサンドル・ドゥ―ギン氏と、ローマで長時間懇ろに話し込んだことが知られている。
 
最近、米国の保守の中には、ロシアの保守派に共鳴して、国家と教会の一体化を提唱する向きすらある(統合主義)。
 
ヴァンス副大統領も、こうした保守派の思想に親近感を有しており、中世神学を熱心に学んでいるそうだ。

混乱の収拾を図るのは……

という次第で、米国とロシアの保守派は近時、文化的・思想的な親近感を増しているが、だからと言って、トランプ政権の対露姿勢に直ちに影響するとまで言うつもりはない。が、両国保守派の接近が更に進むようだと、米露関係を「変質」させる怖れなしとしない。米露関係の背景として、視野に入れておく必要がある。
 
なお、米国とロシアの保守派の間に文明的親和性があるのとは裏腹に、米国と中国の間にはそのようなものは存在しない。
 
無神論の強い中国は、ロシアの保守派にとっても、米国の保守派にとっても、文明論の次元に限ってのことであるが、「異質」な存在だ。
 
(注4)拙論「現代における『文明対立』」(ロシア、サウジアラビア、米国南部に見る「前近代性」)〔讀賣新聞(調研)オンライン、2022年2月3日〕
 

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