総まとめ
本稿は、米国の「混迷」の根っこにあるものを探る試みである。その混迷は、天才トランプ氏が米国に4つの「別人化」を仕掛けたことに由来する部分が大きいことをお分かり頂けたと思う。そう解釈すると、トランプ2.0の性格がすっきり理解出来る。
トランプ氏が持ち込んだ「台風」は、フランス革命時のジャコバン派と同じくらい強烈な混乱と破壊をもたらしている。トランプ氏は、「ラ米的」、「第三世界的」、「19世紀的」、「ロシア的」という4つの魂に取りつかれた天才であることを見究めないと、彼の「革命」の本質は見抜けない。
文明論的に言えば、米国のような現代文明の「中心」に位置する大国が、文明の「周辺」(ラ米、第三世界、100年前の米国、ロシア)から影響やインスピレ-ションを受けて変身すると言う姿は、不思議な構図だ。
が、「弱者」が「強者」に影響すると言うこの構図の含意は吟味に値する。
今回紹介したストーリーが、米国の迷い、混乱、揺らぎなどを示していることは明らかだ。その嵐の渦は、天才トランプ氏が惹起した部分が大きい。が、混乱の収束を図るのは同氏ではなかろう、と言う点だけは確かだ。
(本稿は、本年の月刊Hanada11月号に掲載された拙論に若干加筆したもの)
1948年東京生まれ。1970年東京大学教養学部を卒業後、外務省入省。1973年英ケンブリッジ大学経済学部卒業、のちに修士課程修了。国際交流基金総務部長、スペイン公使、メルボルン総領事、駐グアテマラ大使、国際研修協力機構(JITCO)常務理事を経て、2006年10月より2010年9月まで、駐バチカン大使、2011年4月より杏林大学外国語学部客員教授。著書に『現代日本文明論 神を呑み込んだカミガミの物語』(第三企画)ほか。論文、エッセイ多数。

