「自動車王」も「英雄」も見事にはまった“陰謀論”|松崎いたる

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「単なるデタラメと違うのは、多くの人にとって重大な関心事が実際に起きており、その原因について、一見もっともらしい『説得力』のある説明がされることである」――あの偉人たちもはまってしまった危険な誘惑の世界。その原型をたどると……。


フォードは、ユダヤ人社会からの批判を受けて『ディアボーン・インディペンデント』を廃刊にし、1927年には公式に謝罪を表明し、『国際ユダヤ人』を廃棄・回収する措置を取った。ただし、この謝罪と反省が、フォードの本心から出たものかどうかについては、いまだに疑問視されており、訴訟対策のための謝罪ではないかという見方も根強い。

というのも、フォードは1938年、ナチ政権から外国人向けの勲章「ドイツ鷲章(Order of the German Eagle)」のグランドクロスを受けているからである。

ヒトラーとの友好的な関係は、フォードが謝罪後も反ユダヤ主義を捨ててはいないことを国際世論につよく印象付けることになった。

世紀の英雄一家を狙った犯罪

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チャールズ・リンドバーグ

1927年に世界初の大西洋単独無着陸飛行を成し遂げ、アメリカの国民的英雄となったチャールズ・リンドバーグ(1902~1974)もまた、フォードに影響をうけユダヤ陰謀論にはまった一人である。

偉業達成後の1929年、リンドバーグはニューヨークのフォード邸を訪問し、助言や激励を受け、フォードに対して深い尊敬と共感を示したという。もともと、フォードがリンドバーグの偉業を賞賛しており、リンドバーグもフォードの自動車産業での独立独歩の姿勢に感銘していたと言われていた。念願の面会後、二人は、アメリカの孤立主義の支持、ヨーロッパの戦争への介入反対で同調を強めていく。

とはいえ、政治的発言を控えていたリンドバーグだったが、転機となったのは、1932年に、当時1歳の長男チャールズ・ジュニアが誘拐され、その2か月後、遺体となって発見された事件であった。

世紀の英雄の一家を狙った犯罪は全米を騒然とさせ、マスコミの過熱取材や世論の視線は、夫妻の生活を圧迫した。プライバシーを守り、子供たちを安全に育てるため、リンドバーグ一家は1935年にアメリカを離れ、ヨーロッパに移住する決断を下す。

リンドバーグに向けられた非難の声

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