「両性の合意」を「双方の合意」と改変
6月4日放送のNHKの朝の連続テレビ小説『虎に翼』における、昭和22(1947)年の民法改正についてのナレーションが物議を醸している。それは、当時の状況を正確に伝えず改変し、歴史の捏造に近いという指摘である。
問題のナレーションとは次の通りである。
「この頃、戦前の民法を改正する作業が行われていました。婚姻は、双方の合意のみによって成立すること。配偶者の選択や離婚、財産の相続、住所の選定などに関しても夫婦は同等の権利を持つことなど個人の尊厳と両性の本質的平等を基本にして、多くの改正を施そうとしていたのです」
しかしながら当時は、婚姻は「両性の合意」という概念で民法も作られていた。「双方の合意」のナレーションは、この事実を無視し、あえて「両性」ではなく「同性」の婚姻も認めるかのような概念が当時もあったかのような誤解を生ませかねない。
いわゆる「同性婚訴訟」でも、令和3(2021)年札幌地裁判決において、「昭和22年5月3日に施行された憲法は,同性婚に触れるところはなく,昭和22年民法改正に当たっても同性婚について議論された形跡はないが,同性婚は当然に許されないものと解されていた」と判決文により明示されており、この控訴審で、同性婚を認めていない民法等の規定は憲法違反との判断を示した今年3月の札幌高裁判決においても、この判決文の部分は支持されている。
なお、札幌高裁の判決文では、憲法24条を基にして民法等の規定について検討がなされたが、憲法24条は「その文言上、異性間の婚姻を定めており、制定当時も同性間の婚姻までは想定されていなかったと考えられる」と述べている。
憲法24条の条文は次の通りで、NHKはこの条文における「両性の合意」を「双方の合意」と改変して、上記のナレーションを作成したと推測できる。なぜなら、ナレーションは多くの部分が憲法24条の条文と一致するからである。
日本国憲法24条
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
「双方の合意」とした根拠は何か
私が今回、このナレーションについてNHKに質問したのは、現在の日本社会における同性婚の是非の議論とは関係なく、あくまで歴史的事実として、当時は同性婚の概念がないのに、なぜ「両性の合意」ではなく「双方の合意」としたのか、その根拠を示して欲しいと問うたものである。
この質問をNHKに投げかけたことをSNSに私がアップしたところ、「このナレーションは憲法についてではなく民法の改正作業についての指摘であり、和田氏の主張はおかしい」などという人たちが出てきたが、上記の札幌地裁判決文では「昭和22年民法改正に当たっても同性婚について議論された形跡はない」としており、であるならば、ナレーションを「両性の合意」ではなく「双方の合意」とする理由がない。憲法24条の条文を引用する形でナレーションは作られているからだ。
また、こうした指摘をする人たちもいる。民法739条で婚姻届は「当事者双方」が署名とあるので適切なナレーションだというものだが、そもそも民法739条は、旧民法第775条と同じ内容であり、戦後の民法改正作業で条文の内容改正が行われたものではないし、「両性の合意」ではなく「双方の合意」とする概念が当時はない。
しかも民法739条は手続きについて定めており、「両性の合意」ではなく「双方の合意」でもおかしくないとの論拠とはならない。
民法第739条
婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
②前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。
これらを踏まえ、私はNHKに対し以下の質問を行った。
○6 月 4 日放送の「虎に翼」で、「この頃、戦前の民法を改正する作業が行われていました。婚姻は双方の合意のみによって成立すること・・・を基本として、」とのナレーションがありましたが、「双方の合意のみによって」は、改正過程におけるどのような条文検討や作業においてどのような文言で出たものなのか、その根拠を具体的に示して頂きたく存じます。
○インターネット上では、NHK が視聴者からの質問に対し「このナレーションは、民法の改正内容を説明」と回答した、と発信しているアカウントがありますが、この回答の内容は事実でしょうか。
事実とするならば、民法の改正内容のどの部分に該当するのか具体的に示して頂きたく存じます。