「自動車王」も「英雄」も見事にはまった“陰謀論”|松崎いたる

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客観的な根拠が示されても撤回も訂正もしない

ユダヤ陰謀論にはまったフォードとリンドバーグは、ヒトラーのナチス・ドイツに利用されることになった。戦後、ドイツ国内でのユダヤ人迫害が残虐なホロコーストにまでエスカレートしていた事実を知り、リンドバーグは愕然としたという。しかし、日記などで自己弁護に終始したほかは、公的な場でかつての反ユダヤの言動を反省も撤回もしなかった。フォードもリンドバーグもナチスから受け取った勲章を返還あるいは廃棄したという記録は見当たらない。

陰謀論は根拠の不確かなところから生じるが、客観的な根拠や真実が示されたところで、簡単に撤回されたり、訂正されたりはしない。それは陰謀論が真実かどうかの問題ではなく、人間の信念にかかわる問題だからだといえるだろう。

参考文献
ヘンリー・フォード『国際ユダヤ人』(島講一 編・訳 徳間書店 1993年)
アドルフ・ヒトラー『わが闘争(下)』(平野一郎・将積茂 訳 角川文庫 2001年)
アドルフ・ヒットラー『我が闘争 第二卷下』(東亜研究所特別第一調査委員会 訳 東亜研究所 1944年)
リン・オルソン『怒号の日々―リンドバーグとルーベルトの闘い』(河内隆弥 訳 国書刊行会 2021年)
原田実『オカルト「超」入門』(星海社新書 2012年)

松崎いたる

https://hanada-plus.jp/articles/338

1964年、東京都生まれ。共産党本部に勤務後、板橋区議を4期16年務めたが、共産党に除籍される。著書に『日本共産党 暗黒の百年史』(飛鳥新社)https://amzn.to/43k26j4

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