営内生活10年の隊員にインタビュー

(撮影/筆者)
千僧駐屯地にて、改修された隊舎で生活する隊員に話を聞いた。質問に答えてくれたのは営内生活10年の厨子恵一隊員だ。
――このような美しい隊舎になって、一番ありがたいと感じている点は?
厨子隊員 一番ありがたいなって思ったのは、廊下のフローリングに絨毯が敷かれたことですね。以前は休暇前にポリッシャー(床磨きを行う清掃機械)で廊下を磨いてたんです。あれが大変で。僕らも隊長の点検を受ける前にガンガン磨いてましたけど、やっぱりあれがなくなったのは本当にありがたいです。
――ポリッシャーはつらい?
厨子隊員 やったことない人からすると、すごく大変ですよ。ポリッシャーに引っ張られて。操作も難しくて、右に行きたいのに左に引っ張られるとか、力の入れ方でも変に動いたりするんです。今は絨毯だから、生活隊舎ではもうそういう作業は基本なくなってます。
――居住空間の整備については?
厨子隊員 やっぱりクーラーですね。昔は24時間じゃなかったんです。消灯後には止められてた記憶があります。でも今は24時間使用できるようになってて、ありがたいです。
――個人空間についてはどうですか?
厨子隊員 パーテーションがあるだけで、だいぶ違います。先輩・後輩との距離感もほどよく保てて、自分の時間に集中できるようになりました。ゲームも気兼ねなくできますし、挨拶とかも気を使いすぎなくてよくなった。
――睡眠環境も変わりましたか?
厨子隊員 パーテーションがあるので、音も光もだいぶ気にならなくなって、快適に眠れています。昔の古いベッドに慣れてる世代なのでちょっと違和感はありますけど、マットレス自体はすごく良くなっています。
――収納については?
厨子隊員 昔は小さいロッカーしかなかったので、必要なものをどこかに固めて置いていたんですけど、今はベッド下の引き出しもあるし、必要最小限の私物がしっかり収まるようになってます。
――洗濯・乾燥の設備は?
厨子隊員 洗濯機は今のところ4台あって足りてます。乾燥機はなくて、乾燥室という自衛隊独特の部屋があって、そこで干す形です。ただ靴が干せないので、靴専用の乾燥機があればいいな、という声はありますね。
――シャワーやお風呂の混雑状況は?
厨子隊員 意外と混んでないです。大浴場を使う人も多いし、夏場だけシャワーを使う人もいるので、ケースバイケースですね。
――セキュリティや通信環境は?
厨子隊員 金庫もありますし、携帯の使用もOKです。パソコンも申請すれば使えます。Wi-Fiがないのは不便ですが、もし導入されれば、若い子たちももっと快適になると思います(筆者注:生活隊舎のWi-Fiは令和7年度中に整備完了予定)。
――全体的な印象は?
厨子隊員 本当に快適になりました。クーラーも業務用みたいで「陸自、本気出したな」って感じます。居心地が良くなって、休日もあえて外出せずにここで過ごす子も増えてきてますね。隊舎が居心地がいいので外出しないでここでくつろぐスタイルも普通になってきました。
自衛隊員が報われる時代がきた
「絨毯が敷かれた廊下」「引き出し付きのベッド」「個人空間を守るパーテーション」「シャワールームの脱衣所」――小さな改善の積み重ねが、自衛隊員の心と体のゆとりを生みつつある。
まだ道半ばではあるものの、現場の変化は確かに始まっている。これは、自衛隊員のQOL(生活の質)を真剣に考える最初の一歩だと思う。中谷防衛大臣は、かつてこう述べている。
「自衛官はやりがいのある仕事ですが、労働組合が作れません。職業である以上、報酬や待遇が見合っていなければ応募者は減ります。魅力的な職場があれば若者はそちらへ行ってしまう。自衛官になりたいと考える若者は激減しました。人材不足は深刻な問題です」
自衛官の職場環境については、長らく議論の対象にならず、政治家が意見聴取しても、本音が語られることは少なかったと中谷防衛大臣はいう。
「『自分たちは任務を帯びてやっているので、過酷な中でもやり抜くのが当然』と我慢を重ね、『問題点を語れば誤解を招き、部隊や自衛隊全体に迷惑をかけてしまう』と語ることをためらってきた――それが自衛官たちの現実でした」
しかし、そんな中で現場の声を拾い上げ問題提起を行い、情報提供された問題を解決することで国会は動き出す。
「昨年の夏、老朽化が著しい訓練施設廠舎(しょうしゃ)の写真が話題となりました。あの『ボロボロの建物』が報道されたあと、どうなったかを国会議員に聞きました。北富士廠舎3棟が取り壊しとなり、新棟への設計がはじまっているそうです。
『声を上げてはならない』とされてきた待遇改善の問題も、改善される可能性が見える時代へと変わりつつあります。自衛隊員が報われる時代がきたのです――いま、大きな転換点に、私たちは立っています」
この流れを絶対にとめてはならない。