熊対策に自衛隊投入!
ついに自衛隊が投入されることになった――。と言っても台湾有事の話ではない、熊被害への対処である。
秋田県の鈴木健太知事が相次ぐ熊被害を前に自衛隊への協力を要請。協定を結び箱罠の設置や熊駆除にあたる猟友会会員を輸送するなど補助的な任務を中心にこなすこととなったが、事態はそれほどまでに切迫している。
秋田では今年だけで35人が熊に襲われている。鈴木知事も元陸上自衛官であり、県民が見舞われている窮状にやむにやまれず古巣へ助けを求めた格好だ。
読売新聞によれば〈隊員は箱わなを運ぶ「作業組」と、周囲を警戒する「監視組」、上空から情報収集する「ドローン組」に分かれて支援にあたる。背面に金属製プレートを挿入した防弾チョッキを着て、撃退用スプレーを1本ずつ携行する。さらに監視組の隊員は防護盾と武道の「銃剣道」で使われる木銃(長さ1メートル66)も装備し、クマに遭遇した場合、盾と木銃で威嚇してスプレーを吹きかけて追い払うという〉。
仮に熊が飛び出してきた際に、防護盾とスプレー、木銃で対処できるのかはかなりの疑問がある。そもそも自衛隊は熊対処の訓練はしていない。成長した熊(ツキノワグマ)なら400キロの巨体が時速40キロで突進してくるとなれば、仮に発砲許可が出たとしても不慣れな状況で確実に仕留めるのは難しいだろう。
それでもすでに複数の被害が出ている状況では、何らかの形で対策を講じないわけにはいかないのも事実。地元民はもちろんだが、自衛官が熊に襲われることのないようにと祈るばかりである。
変わったのは熊か、人間か
連日、熊関連のニュースが世間を駆け巡っている。熊がなぜ、人里に降りてきてしまうのかについても、様々な角度から多くの考察が論じられている。
佐々木洋『新・都市動物たちの事件簿』(時事通信社)でも、第一章で「東京二十三区民がクマ鈴を持ち歩く日」と題し、熊の生態やすでに起きている東京近郊での「熊目撃情報」の実態について触れている。
著者は40年近くにわたり、自然環境や野生動物などのガイド的な仕事に携わってきた「プロ・ナチュラリスト」。東京を中心に自然を観察し、どの林や公園に、どんな生き物が生息しているかを熟知し、わずかな変化も把握しているという。
そんな著者でも驚いたというのが、2023年10月23日に、著者が住む東京都町田市内でツキノワグマが発見されたというニュースだった。出没場所はアウトドアを楽しめる青少年施設であり、自然が豊かな場所ではあったが、人里離れた集落というわけではない。市内の幼稚園生や小中学生もよく利用する、地元民にとっては身近な場所だったという。
なぜ、熊が人里や住宅街にまで現れるようになるのか。著者もいくつか考えられる理由を挙げている。また、熊が現れる前兆としてイノシシやカモシカが目撃されるようになると解説しつつ、人間の生活圏に現れるのを「緩衝地帯となる里山の消失」「熊の食べ物であるドングリの増減」などとする。
目からうろこなのは、「庭で犬を飼う人が減ったからではないか」と指摘している点だ。
確かに、2000年代に入って以降、大型犬であっても室内で飼う人が増えている。以前は大半の犬が庭や玄関先に犬小屋を建てるなどして、野外で飼われていた。そのため、熊などの野生動物も犬との緊張関係があり、匂いや気配を察して近づかなかったり、うっかり近寄れば犬が吠えるなどして熊が逃げていくこともあっただろう。
様々な変化があって野生の熊も人里へ降りてくるようになったわけだが、行動様式が変わったのは、熊ばかりではない。

