「医療の壁」を幸齢党がぶっ壊す!|和田秀樹

「医療の壁」を幸齢党がぶっ壊す!|和田秀樹

高齢者のインフルエンサーと呼ばれ、ベストセラーを次々と出してきた和田秀樹氏が「幸齢党」を立ち上げた。 なぜ、いま新党を立ち上げたのか。 「Hanadaプラス」限定の特別寄稿!


薬を減らせば手取りアップ

調剤薬局で処方される薬は年間8兆円。もし、多剤併用をやめ、薬の量を半分に減らすことができたら、4兆円の節約になる。4兆円を節約できたら給料から天引きされる保険料を年間5万円程度減らす=手取りを年間5万円増やすことができる。財源も示さず「減税」を主張する無責任な野党より、よほど実現可能な政策でしょう。
 
薬を減らすことで高齢者の健康にも寄与するうえ、薬剤費が減ることで、現役世代の手取りも増える。
 
高齢者、現役世代、どちらにとってもウィン・ウィンの政策なのです。
 
ちょっとでも数値に異常が出たら薬で正常にさせる医学界の教育が、患者本人の健康を害するだけでなく、他者の命を奪っている可能性すらあります。
 
東京・池袋で、当時87歳だった飯塚幸三さんが運転する乗用車が暴走し、母子2人が死亡、9人に重軽傷を負わせた事故をきっかけに、高齢者の自動車事故がなにかと話題になるようになりました。
 
マスコミは事故の原因を、調査もせずに年齢のせいにしていますが、私は薬の影響による意識障害を強く疑っています。
 
事故を起こした飯塚さんは、普段は安全運転をしていたといいます。そういう人が突然、暴走したとすると、私のように老年医学をやっている人間は、まず薬物による意識障害を疑います。
 
飯塚さんはパーキンソン病で、治療も受けていました。パーキンソン病の治療薬は、幻覚、妄想の副作用が出やすく、運転禁止薬にも選ばれています。アメリカの道路交通安全局も運転障害薬に認定している。
 
薬による意識障害の可能性がきわめて高いわけです。
 
24年10月に出たアメリカの医学会雑誌(『JAMA』)に掲載された論文によると、アメリカの高齢者の車がクラッシュするレベルの交通事故12万件を調査したところ、8割の人が運転障害薬を飲んでいたといいます。

ひどい高齢者差別

逆に言えば、薬を飲んでいない人はほとんど事故を起こしていません。警察庁のデータを見ても、高齢者の事故率(人口10万人当たり)は決して高くなく、むしろ10代、20代のほうが高いくらいです。
 
しかし、「たけしのTVタックル」という番組で、私が池袋の事故について「薬による意識障害の可能性が高い」と発言したら、そこだけまるごとカットされてしまいました。
 
製薬会社はマスコミにとって大きなスポンサーだから、薬のネガティブキャンペーンにつながるようなことは報じることができないのでしょう。
 
意識障害は、パーキンソン病のような難病の薬だけが引き起こすわけではありません。血圧を下げる薬や血糖値を下げる薬、眠くなるタイプの市販薬でも起こり、2700種類の薬が運転禁止薬になっています。
 
血圧も血糖値もやや高めのほうが元気で長生きというデータがあるのに、医者はとにかく正常数値まで下げようとする。薬で血圧、血糖値が下がりすぎて意識障害を起こし、事故につながっている可能性もあるわけです。
 
薬による意識障害の影響が強く疑われるにもかかわらず、マスコミは高齢者が事故を引き起こすと「年齢による認知機能の低下」と決めつけ、「高齢者は免許を返納すべき」という同調圧力が生まれました。
 
明らかに高齢者差別です。
 
国は2017年から、75歳以上のドライバーには、免許更新の際、認知機能検査を強制しています。歳をとれば認知機能が落ちるのは事実ですが、世界の研究では認知機能と交通事故の相関関係は認められていません。アメリカでも認知機能検査は意味がないとして、廃止しています。
 
高齢者から免許を取り上げるのは、百害あって一理なしです。免許を返納すると、6年後の要介護率が2・2倍になることもわかっています。
 
私の知り合いでも、免許更新の際、認知機能検査をパスできず、免許取り消しになった人がいました。その人は農作業でトラクターに乗っていたのですが、運転免許がないためにトラクターが使えずに農業ができなくなり、うつ病になってしまった。
 
こんなひどい高齢者差別がまかりとおっているのは、どう考えてもおかしい。

薬の出しすぎで医療崩壊?

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1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』『70歳の正解』『女80歳の壁』(いずれも幻冬舎新書)など著書多数。


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