「医療の壁」を幸齢党がぶっ壊す!|和田秀樹

「医療の壁」を幸齢党がぶっ壊す!|和田秀樹

高齢者のインフルエンサーと呼ばれ、ベストセラーを次々と出してきた和田秀樹氏が「幸齢党」を立ち上げた。 なぜ、いま新党を立ち上げたのか。 「Hanadaプラス」限定の特別寄稿!


「車の免許がないことで、自分の足で歩くようになるから、健康にはいいのではないか」
 
こういうことを言う人もいるでしょうが、まったく高齢者の実情をわかっていません。
 
たとえば、高齢者はよほど都心に住んでいる人以外は気軽に散歩できません。まず、道端にベンチがないから、疲れたときに休むところがない。真夏に散歩に出たら、それこそ熱中症になってしまう可能性もある。
 
だから、郊外に住んでいる高齢者がもっとも歩いている散歩コースは、ショッピングモールのなか。年中エアコンが効いているし、ベンチも多い。疲れたら休むこともできます。
 
しかし、免許を取り上げられると、高齢者にとって最高の散歩コースであるショッピングモールに行く足を奪われてしまうのです。
 
医者の不勉強、製薬会社に忖度するマスコミによって、高齢者がヨボヨボにさせられている。病気や要介護の高齢者が増えることで、現役世代はさらに重い社会保険料負担を強いられている。
 
医療の問題が、高齢者だけでなく、国民全体に不利益を及ぼしているのです。
 
薬をたくさん処方することが、回り回って地方の医療崩壊にもつながっています。
 
先述したように、薬をたくさん出しても医者は儲かりません。儲かるのは調剤薬局です(ただ薬剤師の給料は上がっておらず、ボロ儲けしているのは経営者です)。
 
調剤薬局が儲かるとどうなるか。近年、1つのビルに内科、皮膚科、婦人科など、さまざまな病院が入っている「メディカルビル」をよく見かけますが、そのビルのオーナーは調剤薬局であるパターンが多い。
 
1階に自社の調剤薬局を入れることで、テナントに入っている病医院の処方箋を一手に引き受け、儲けるというビジネスモデルです。
 
調剤薬局は、メディカルビルを建てる際、近隣の大きな病院の勤務医に「敷金、礼金もいらないから、うちのビルで開業しませんか」と誘い、引き抜きます。
 
引き抜かれた医者は、勤務医時代にくらべ、当直などもなく楽になる一方、年収は倍以上になる。「資金も少なくて済むし、メディカルビルでの開業はいいらしい」という情報が広まり、いまも続く、メディカルビルでの開業ラッシュが起こりました。
 
しかし、引き抜かれた病院からしたらたまったものではありません。病院は、病床数に応じて何人医者を配置しなければいけないと法律で決まっています。勤務医にやめられると病床数を減らさなければならず、泣く泣く病床数を減らす病院が続出、地方で医療崩壊が起こっているのです。

患者が治療を決められない

薬を過剰に出すことがどれほど日本に悪影響を及ぼしているか、おわかりいただけたでしょう。
 
では、どうすれば薬を減らすことができるのか。先述したように、臓器別診療が基本になっている医学教育を抜本的に改革するしかありません。

「患者が『薬を減らしてくれ』と医者に言えばいいではないか」と思うかもしれませんが、現実はそんなに甘くはありません。私は著書で多剤併用の問題を何度も指摘しており、それを読んだ読者が私の本を持って、かかりつけ医に「薬を減らしてほしい」とお願いしても、まったく相手にしてもらえないという話をよく聞きます。それほど強制医療が根付いている日本では、患者自身が治療のあり方を決めるのは難しい。
 
幸齢党が、医学教育改革のために掲げているのが、医学部入試面接の廃止です。
 
私だけでなく、若い世代の医者も臓器別診療に批判的な人はたくさんいます。しかし、それを公然と言うことができない。
 
なぜなら、自分が医療界の批判をして医学界を敵に回したら、医者を目指している自分の子供が面接で落とされてしまう可能性があるからです。つまり、面接試験があることで、医者の子弟が医学界に人質にとられている。
 
一時、私立の医大で、寄付してくれたOB、OGの子弟の点数に下駄を履かせるなどしていました。
 
それが不正入試の温床になっていると、現在は優遇が原則禁止され、医学部に入ってはいけない人を落とすための入試面接が行われています。
 
勉強だけできて、コミュニケーション能力が欠如した人を医師にしないためとか、医学部を出たのに医者になる気がない人を落とすためということになっていますが、そもそも医者に向かない人とはどんな人なのか。

変わり者が医学界を変える

最近の研究では、発達障害やADHDの人のほうが一芸に秀でて、すごい才能を開花させることがわかっています。医者に置き換えれば、手術の達人になる可能性だってあるわけです。
 
18、9歳で変わり者だった学生が、この先もずっと変わったままかどうかなんてわからないでしょう。
 
そういう人材を、いまの医学界は「ちょっと扱いにくそう」 「こいつは自分に逆らいそうだ」と面接試験で落としている。こんなことを続けていては、今後、医学界の進歩は望めません。
 
私だって18歳の頃は、いまならアスペルガーだとか、ADHDだと診断されるような変わり者でした。医者になる気などさらさらなかったけれど、大好きな映画を撮る資金を貯めるには医者がいちばん稼げると思って医学部に進学。もし、当時、面接試験があったら、私など真っ先に落とされていたでしょう。
 
しかし、そんな私も勤務医時代、精神科の部長だった故竹中星郎先生という師に出会い、心を入れ替え、医者としての心構えを学んでいきました。
 
若い医師たちが、教授たちの考えはおかしいとか古いとか自由に言える、あるいはそういう気骨のある学生が入るようでないと、医学というものは進歩しません。 
 
守旧派の教授たちがけむたがるような人材こそ、いまの医療界には必要なのです。
 
いまのタイミングで政党を立ち上げた理由は、与党が少数与党で、政治が流動化しているからです。
 
先の衆院選で自公が過半数割れしたことで、野党の影響力が増し、この何十年間変わらなかった103万円の壁や、三号被保険者の見直しなどにメスが入りました。

今回の参議院選挙でも、非改選の議員も合わせて与党が過半数割れを起こし、幸齢党がある程度の議席を取ることができればチャンスが出てくる。
 
参議院選挙での得票数は、次の衆議院選挙に大きな影響を与えます。われわれの応援があれば得票数が増えるということになれば、与党の候補者が近づいてくる可能性もある。どこの党の人だろうと、私たちと政策面で合意してもらえれば、その候補者を推薦したいと考えています。
 
今回の選挙では、街宣車で回ったり、辻立ちしたりする選挙活動よりも、全国を回って講演活動をしたいと考えています。講演に集まった人たちに、私が本稿で述べたような高齢者医療の問題を少しでも知っていただきたい。
 
この何十年間、医療が政治の争点になってきませんでした。
 
この参院選で、医療の問題がしっかり票につながることを示さないと、国民はこれから先何十年、同じ目に遭い続けるでしょう。
 
それを食い止めるためにも、ぜひ多くの人に、幸齢党を応援していただきたいと思います。

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1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』『70歳の正解』『女80歳の壁』(いずれも幻冬舎新書)など著書多数。


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