同胞を道具に使う所業
トランプはある意味、天賦の才があったわけだが、各仕掛人たちは意図的に、自らがこれと思う人物を依り代にして、人々の怒りを駆り立て、技術を駆使して政治勢力化していく。
この「仕掛け人」たちにとって、民衆は数でしかない。
「同じ怒りを抱える人々を、テクノロジーによって束ねる」限りにおいては、何ら問題になることはないだろう。事実、例えば右派支持者には移民の流入によって割を食わされている人々も少なくはない。だが、「仕掛け人」たちはそうした不満の種を、文字通り「火種」としか見ていないのだ。
生活の中で何らかの形で軟着陸させられたかもしれない問題に、テクノロジーやデータを使ってガソリンを注ぎ、炎上、爆発させて自らの思うままの政治活動や投票行為を行わせるのみである。その後の人々の認識や生活になど、何らの興味もないのだろう。いわば憂さ晴らしの道具に使われているのである。
どんな訴え方をすれば響くのか、データによって丸裸にされた人々は、その人ごとにカスタマイズされた情報を受け取ることになる。隣の人とは違うメールやデータを受け取り、「それが事実であり自らの感情が正統な怒りだと思い込まされる」。これは一種の洗脳に近く、本来、共に考え、悩みながら社会を作っていくべき同胞を傀儡にするかのごとき所業なのである。
一方的にお題目を流して来た既存メディアはインターネットの登場により、信頼を失った。だがそんな既存メディア以上のえげつなさで、仕掛け人たちは我々から考える能力を奪っていくのだ。
詳しい手法、事例についてはぜひ本書をお読みいただきたい。ただし、悪用厳禁である。

ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。