【読書亡羊】悪用厳禁の書! あなたの怒りは「本物」か  ジュリアーノ・ダ・エンポリ著、林昌弘訳『ポピュリズムの仕掛け人』(白水社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】悪用厳禁の書! あなたの怒りは「本物」か ジュリアーノ・ダ・エンポリ著、林昌弘訳『ポピュリズムの仕掛け人』(白水社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


トランプ自伝: 不動産王にビジネスを学ぶ

同胞を道具に使う所業

トランプはある意味、天賦の才があったわけだが、各仕掛人たちは意図的に、自らがこれと思う人物を依り代にして、人々の怒りを駆り立て、技術を駆使して政治勢力化していく。

この「仕掛け人」たちにとって、民衆は数でしかない。

「同じ怒りを抱える人々を、テクノロジーによって束ねる」限りにおいては、何ら問題になることはないだろう。事実、例えば右派支持者には移民の流入によって割を食わされている人々も少なくはない。だが、「仕掛け人」たちはそうした不満の種を、文字通り「火種」としか見ていないのだ。

生活の中で何らかの形で軟着陸させられたかもしれない問題に、テクノロジーやデータを使ってガソリンを注ぎ、炎上、爆発させて自らの思うままの政治活動や投票行為を行わせるのみである。その後の人々の認識や生活になど、何らの興味もないのだろう。いわば憂さ晴らしの道具に使われているのである。

どんな訴え方をすれば響くのか、データによって丸裸にされた人々は、その人ごとにカスタマイズされた情報を受け取ることになる。隣の人とは違うメールやデータを受け取り、「それが事実であり自らの感情が正統な怒りだと思い込まされる」。これは一種の洗脳に近く、本来、共に考え、悩みながら社会を作っていくべき同胞を傀儡にするかのごとき所業なのである。

一方的にお題目を流して来た既存メディアはインターネットの登場により、信頼を失った。だがそんな既存メディア以上のえげつなさで、仕掛け人たちは我々から考える能力を奪っていくのだ。

詳しい手法、事例についてはぜひ本書をお読みいただきたい。ただし、悪用厳禁である。

梶原麻衣子 | Hanadaプラス

https://hanada-plus.jp/articles/712/

ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

関連するキーワード


書評 読書亡羊 梶原麻衣子

関連する投稿


【読書亡羊】陰謀論者に左右ナシ!  長迫 智子・小谷賢・大澤淳『SNS時代の戦略兵器 陰謀論』(ウェッジ)|梶原麻衣子

【読書亡羊】陰謀論者に左右ナシ! 長迫 智子・小谷賢・大澤淳『SNS時代の戦略兵器 陰謀論』(ウェッジ)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊』石破・トランプ会談を語るならこの本を読め!  山口航『日米首脳会談』(中公新書)

【読書亡羊』石破・トランプ会談を語るならこの本を読め! 山口航『日米首脳会談』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】戦後80年、「戦争観」の更新が必要だ  平野高志『キーウで見たロシア・ウクライナ戦争』(星海社新書)、仕事文脈編集部編『若者の戦争と政治』(タバブックス)

【読書亡羊】戦後80年、「戦争観」の更新が必要だ 平野高志『キーウで見たロシア・ウクライナ戦争』(星海社新書)、仕事文脈編集部編『若者の戦争と政治』(タバブックス)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】中国は「きれいなジャイアン」になれるのか  エルブリッジ・A・コルビー『アジア・ファースト』(文春新書)

【読書亡羊】中国は「きれいなジャイアン」になれるのか エルブリッジ・A・コルビー『アジア・ファースト』(文春新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】激震の朝鮮半島に学ぶ食と愛国心  キム・ミンジュ『北朝鮮に出勤します』(新泉者)、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)

【読書亡羊】激震の朝鮮半島に学ぶ食と愛国心 キム・ミンジュ『北朝鮮に出勤します』(新泉者)、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


【今週のサンモニ】潔癖で党総裁になったのに潔癖でなかった石破首相|藤原かずえ

【今週のサンモニ】潔癖で党総裁になったのに潔癖でなかった石破首相|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】悪用厳禁の書! あなたの怒りは「本物」か  ジュリアーノ・ダ・エンポリ著、林昌弘訳『ポピュリズムの仕掛け人』(白水社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】悪用厳禁の書! あなたの怒りは「本物」か ジュリアーノ・ダ・エンポリ著、林昌弘訳『ポピュリズムの仕掛け人』(白水社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


イーロン・マスクの「裏の外交」|長谷川幸洋【2025年4月号】

イーロン・マスクの「裏の外交」|長谷川幸洋【2025年4月号】

月刊Hanada2025年4月号に掲載の『イーロン・マスクの「裏の外交」|長谷川幸洋【2025年4月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


安倍総理暗殺「追及すると政治的に抹殺されるよ」【高鳥修一】

安倍総理暗殺「追及すると政治的に抹殺されるよ」【高鳥修一】

月刊Hanada 公式YouTubeチャンネルに投稿した『安倍総理暗殺「追及すると政治的に抹殺されるよ」【高鳥修一】』の内容をAIを使って要約・紹介。