【読書亡羊】ベネズエラ国民「私たちを見捨てないで!」 トランプがマドゥロ拘束に動くまで  外山尚之『ポピュリズム大国 南米』(日本経済新聞出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ベネズエラ国民「私たちを見捨てないで!」 トランプがマドゥロ拘束に動くまで 外山尚之『ポピュリズム大国 南米』(日本経済新聞出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


そもそもベネズエラってどんな国?

麻薬輸送船の撃沈から始まって、一体どこまでやるつもりなのか……。

そんな思いを抱きながらも年末年始のムードにすっかり気を抜いていたところ、新年早々に事態が動いた。トランプ米大統領による、ベネズエラへの軍事作戦の決行とマドゥロ大統領の拘束だ。

日本時間の2026年1月3日未明、マドゥロ大統領はあれよあれよという間に拘束、アメリカに移送されたのである。

正月ボケも吹き飛ぶ出来事にいち早く反応したのが北朝鮮の金正恩。1月4日にミサイルを発射、「うちに同じことをやろうとしても、同じようにはいかないぜ」と言わんばかりのアピールを行った。

そして議論はトランプの軍事作戦とマドゥロ拘束の是非に向かうのだが、

「ベネズエラ国内は荒れに荒れていて、国民はアメリカに感謝している」
「ベネズエラからアメリカに薬物が流入しているのだから大問題、当然の対処だ」

との意見もあれば、

「いや、そうだとしてもトランプの行いは国際法違反であり、やってはいけない」
「本当の狙いは資源、石油だ」

という解説もある。

いずれにしても、まずはベネズエラについてどういう状況にあったのかを、信頼の足る情報源で確認したいところである。そこで手に取ったのが外山尚之『ポピュリズム大陸 南米』(日本経済新聞出版)だ。

著者の外山氏はブラジル・サンパウロの支局長を務めた経験があり、ブラジルはもちろん、ベネズエラ、アルゼンチン、チリなど南米の各国での現地取材や要人取材を行ってきた。その成果を盛り込んだ本書は2023年6月刊行のものながら、ベネズエラの「今日に至るまでの状況」を教えてくれる。

ポピュリズム大陸 南米

「失敗国家」となった顛末

第一章で扱われるベネズエラについての記述は、かなり衝撃的な場面から始まる。空港の手荷物検査の場面で、外山氏は係員から同僚を対象とした買春を持ちかけられるのだ。

経済が悪化しているにしても、空港係員という職に就いているのになぜ、と考えてしまうが、職員の月給はわずか2ドル。売春でもなんでも、外貨を稼がなければ生活が立ち行かないのだという。

そうしたすさんだ社会を立て直せないまま独裁的な政治を続けてきたのが、他でもないマドゥロであり、ベネズエラ人は2025年までに800万人近くが国外に流出。実に国民の約4分の1が祖国を去った計算になる。

一体どうしてこんなことになったのか。

本書は2023年時点までのベネズエラの現状をレポート・分析しているが、そこからわかるのはベネズエラが国民がこぞって逃げ出すほどの「失敗国家」となった顛末だ。

ベネズエラはかつて産油国として潤っていたが、一方で貧富の差は激しく、民主主義国家とはいえ一部の富裕層やエリートが牛耳る社会であり、非エリートの不満が渦巻く状況にあった。

そこへ登場したのがチャベス大統領だ。一度はクーデター失敗で投獄されるものの表舞台に返り咲くと、産油国である強みを生かしながら国民への分配に力を入れ、「21世紀の社会主義国家」として辣腕を振るった。

貧しき人々は熱狂し、実際に生活レベルも向上し、「チャビスタ」と呼ばれる熱狂的な支持者や利益集団も登場した。

だが貧者への再分配と言えば聞こえはいいが、その実は〈原油輸出で得た富を国民にバラまいていた〉〈「金で選挙を買う」という、南米大陸にはびこる左派ポピュリズムの典型的な手法〉だったと、本書は手厳しく批判する。

昨今、ポピュリズムと言えば排外主義や自国第一主義を煽る右派が注目されるが、当然ながら左派ポピュリストも問題だ。そしてポピュリズム台頭には、その前段があるのだ。

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