右派=反左派的な人なのか?
「市民」という言葉は本来、「国民」とほぼ同義のはずなのだが、「市民団体」「市民運動」となると途端に左派っぽさが漂ってきてしまう。それだけに、「右派」と「市民」が並んだ字面には、どうにも見慣れなさを覚えてしまう。
松谷満『「右派市民」と日本政治――愛国・排外・反リベラルの論理』(朝日新書)は、市井にいる保守・右派の人々を「右派市民」と呼び、彼らの考え、実態、規模を郵送調査による1万人を超えるアンケート(実に段ボール23箱分!)から浮き彫りにしている。
2017年の調査なので10年近く前のものになるが、当時は安倍政権が5年目と長期政権となり、2015年の安保法制も経た後の時期である。現在進行形で、いわゆる「モリカケ問題」が政界を揺るがせていた時期でもある。
さらに安倍政権が選挙に勝ち続けていたことで社会の「右傾化」が指摘されていた頃でもあり、調査からは当時の空気の一端、そして今に通じる世間の空気を垣間見ることができるだろう。
本誌読者であれば、「右派」という位置づけに疑問を抱く人もいるかもしれない。「右派ではなく、真ん中だ」「誰もが持つ愛国心を、ことさら『右』だと言いたがる左派の本ではないか」という批判もあろう。
本書は、右派をどのように位置づけているのか。〈本書が注目する右派市民とは、右派的な要素のある一部分について強いこだわりがある人〉として、次の4つの軸を立てて、該当する人々の割合を示している。
①靖国参拝を重視するなどの愛国主義者 6%
②夫婦別姓や同性婚を認めないなどの伝統主義者 4%
③中韓をことさら嫌う排外主義者 13%
④共産党や(立憲)民主党を嫌う反左主義者 5%
この結果をどう見るだろうか。多いと感じるか、少ないと嘆くか。筆者(梶原)は①~③はほぼ④と重なるのではないかと思っていたが、一万人の調査の結果から言えば、世の中に「反左派的な人」はごくわずかしかいないのである。
本書では2017年の1万人調査に加え、2024年に実施した3000人を対象とするインターネット調査の結果も紹介しているが、やはり④に該当する人は4%だったという。先の衆院選では、自民党の大勝を「リベラル(左派)が嫌われた結果だ」とする解説も少なくないが、「左翼が嫌い」と強く自覚している人は全体の4%しかいないとなると、こうした解説も再考の余地があるのではないか。
反中嫌韓の世論はなぜ生まれたか
調査結果によれば右派的な要素を持つ人たちの中で最もボリュームが大きいのが③の排外主義者ということになるが、これは主に中国・韓国に対して「最も嫌い」と答えた人のみの数字だという。日本人はアンケートでも「どちらでもない」や「やや好き/嫌い」といった回答を選びがちだと言われる中で、「最も嫌い」を選ぶ人が13%もいるというのは、かなり驚きの結果である。
これを受けて本書では〈これだけのボリュームがあれば、排外感情につけ込んで中国や韓国への憎悪を煽るような本を次々出版したり、ネット上でそうしたコンテンツを量産し、閲覧回数を稼ぐような「ビジネス右翼」も現れて当然〉と解説している。
だがここには「右派」の言説を扱ってきた側から見れば議論の余地がある、というか因果関係の逆転があるのではないか。そもそも、中韓嫌いが増えたのはなぜかという点だ。
2010年代は中国、韓国ともに日本との間で外交関係における対立が深まった時期だ。中国との間には尖閣沖漁船衝突事件が勃発し、韓国との間でも歴史認識問題や竹島の問題が起きていた。民主党政権時代の反動という日本国内の事情もある。
また、特に中国に関しては、台湾(2014年のひまわり革命)や香港(同年の雨傘革命)に対する姿勢も報じられたことで、対中好感度が下がった影響もあるだろう。
右派系の出版物に中韓への憎悪を煽る表現があったことは否定できないし、そうした人たちを想定読者としてコンテンツを作った面もあるだろう。だが、「事実を取り上げたことで、実態を知り、中韓を嫌う人たちが増えた」面もあることは指摘せざるを得ない。もちろんそこには、出版物だけでなくインターネットの影響もある。
その結果として、保守層(右派・右翼層)という市場が形成されたのであって、始めから存在したその層に向けてビジネスを展開したのではないのではないか。少なくとも相互作用で生じてきたものであり、その作用の中には「中韓自身の振る舞い」だけでなく「なぜか中韓側の方を持ちがちな日本の既存メディアの論調」も含まれよう。

