【読書亡羊】自民党総裁選候補者、全員の著作を読んでみた!

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


仲間と頑張るコバホーク

二冊目は小林鷹之『世界をリードする日本へ』(PHP、2024年9月)

総裁選を意識したものではなく、それ以前から執筆の話が進んでいたとのこと。9月18日発売と、よく間に合わせたなと本人+出版社の追い込みに感心する。

こちらも経済安保が中心の本だが、法案作成以前の自民党の経済安保提言が出るまでの段階から小林議員がかかわってきたこと、まさに手塩にかけた法案だったことがわかる。

多忙を極める中、初代経済安保担当大臣としての答弁書類を風呂で読みながら赤字を入れていて、ウトウトして湯船に落としたという失敗エピソードが効いている。法案成立までにかかわってきた仲間(スタッフ)への言及もあり、そうした姿勢が自民党内からも「立て、コバホーク」の声が上がった理由なのかもしれない、と感じさせるものだった。

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情緒も含め安定感抜群の林氏

三冊目は林芳正『国会議員の仕事』(中公新書、津村啓介氏との共著、2011年3月)

自身が議員に立候補する前の状況からを書き起こしており、学生時代に「子供の頃からずっと習っていたピアノをやめてギターに走った」などのエピソードも。

小泉政権への批判的な姿勢、第一次安倍政権の成立前から感じていた不安を安倍氏本人に伝える場面などがかなり率直に綴られているが、「批判してやった!」「言ってやった!」というようなハッタリめいた雰囲気が全く感じられないのには驚いた。

総裁選にまつわる話では、林議員曰く「二回しか勝ち馬に乗れていない」「熟慮の結果が、党の大勢と異なる場合が多い」と綴っており、今回も苦戦が報じられているが、「安定感」という意味では評価が高い。それは経験や能力だけでなく、林氏の情緒そのものが安定しているのではないかと本書からも伝わってくる。

また、総裁たる条件として「内政と外交の重量閣僚、党三役のうち最低二つを経験した方がいい」と書いている。これは国家の重要政策の意思決定を経験しておくべきという考えから。

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書評 読書亡羊 梶原麻衣子

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