【読書亡羊】自民党総裁選候補者、全員の著作を読んでみた!

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


総裁選、適性を見るなら動画より書籍だ!

9月26日、総裁選が終わり、石破茂元幹事長が自民党総裁に選出された。9人もの候補が出馬した総裁選を、皆さんはどのようにご覧になっただろうか。

近年の総裁選で目立つのはネットでの発信量が増えていることだろう。

候補者本人や応援団の動画を含むSNS運用はもちろんだが、既存のネット番組への出演もひっきりなしに行われている。「ニコニコ動画主催の候補者討論会」のようなものだけでなく、youtuber個人の番組に一人ずつ出演するスタイルも散見される。総裁選だから公職選挙法などは関係ないわけだが、放送法も及ばない、新聞のような検証も行われないネットの動画番組が、総理を決める戦いに大きな影響を及ぼす事態には若干の不安を覚える。

何より、五月雨式に各候補者がばらばらに出演する動画番組を、すべて追いかけて視聴するのはなかなか骨が折れる。動画視聴が苦手な筆者にとっては、もはや苦行である。

そこで今回、自民党総裁選候補者全員の著作を読み比べることにした。最終的に9人もの候補者が実際に出馬するとは思わず始めてしまったために若干、後悔しかかったが、今回の書評では総裁選候補者の各著作の寸評をご紹介したい。順序は総裁選の届け出順に従った。

なお、候補者の一人である加藤勝信氏には著作や対談本などがないため、残念ながら取り上げることがかなわなかった。今回、SNS等の露出が増えたことで知名度が上がり、「意外に柔らかい人柄」「結構『しごでき』?」などの評価も高まっているようなので、ぜひ自著の出版をご検討いただきたい。

※なお、各本の評は総裁選の結果が出る前に書いたもの。

高市本はソリッド、あまりにソリッド

まずは高市早苗『日本の経済安全保障』(飛鳥新社、2024年7月)

現役大臣が所管する政策について書いているだけに漏れのない作り。政策オタク、条文オタクと言われるくらい政策に通じ、自分で法律の条文を書いてしまうくらいだから、現役大臣として多忙を極めながらも手ずから原稿を書いたものと思われる。

その「オタク」っぷりはいかんなく発揮されているが、現役大臣が書いているだけにある程度の制限はあったようで、「本当は中国を名指しする形で、日本の備えを強化したい」という思いはあとがきに書かれることとなった。

硬派な一冊なので、高市氏の来歴や人柄については伝わりにくい(硬派な政策視点を持つ人なのだということはわかるが)ため、そうした点を知りたい向きは月刊『Hanada』セレクション「高市早苗は天下を取りにいく」をおすすめする(と宣伝しておく)。

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