厚生労働省HPより
80年住んだ家から追い出され、マンションを買わされる
被害者は東京都目黒区に住む田中英子さん(90・仮名)。田中さんが、しっかりした口調で話す。
「社協に紹介された弁護士のせいで、私の人生は狂ってしまいました。弁護士のせいで、わずか数カ月の間に私は80年間住んだ自宅を追い出され、弁護士が顧問を務める不動産会社の仲介マンションを弁護士に急かされて買わされました。その結果、私の生活は一変し、心労のせいで、髪の毛がどんどん抜けてしまったのです」
田中さんは耳は遠いものの認知症ではなく、意思疎通は問題なく行える。田中さんがトラブルに巻き込まれたのは、目黒区の地域包括支援センター(以下、包括と略す)に相談したことがきっかけだった。
包括は「市町村が設立主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等を配置して、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域の住民を包括的に支援することを目的とする施設」(厚労省ホームページ)、つまり公的機関である。包括は「権利擁護業務」の一環として、市民に成年後見制度を利用させている。
私は多くの後見トラブルを取材してきたが、被害者の多くは「包括の職員から成年後見制度を勧められ、制度の問題点を知らされずに利用してしまった」と悔やんでいた。
「社協」抜きに成り立たない!職員数14万人の巨大組織
田中さんの証言や各種資料によると、田中さんが包括に相談した内容は次のようなものだった。
「2014年2月に、右足首をドアに挟まれて骨折した。脊柱管狭窄症と骨粗鬆症もあり、足腰が弱く、歩きづらい状態だ。両親はすでに亡くなっている。現在は自宅で姉(当時、88)と二人暮らし。姉は元公立高校の教師。私も洋裁の講師をしていたが、いまは二人とも退職して年金暮らしだ」
「姉は認知症と診断されている。昼夜逆転の生活をし、おむつを破ってトイレに流して詰まらせることがあるが、できる限り私が姉の面倒を見てあげたいと思っている」
「いまは私が郵便局でお金を下ろし、各種契約の手続きもできるが、私に何かあると認知症の姉が心配だ。いずれ姉妹で同じ施設に入ることを考えている。いまのうちに公的機関とつながっておきたい」
相談を受けた包括の職員は、田中さんに「日常生活自立支援事業」の契約を勧めた。
自立支援事業は、認知症で判断能力が十分でない人が地域で生活できるように、預貯金の引き下ろしや医療、介護、福祉の各種契約の援助、定期的な訪問による生活変化の観察などのサービスを行う。
判断能力は不十分でも、自立支援事業の契約を理解できる人が対象。専門員と呼ばれる社協の正職員(社会福祉士など)が支援計画書を作成し、それに基づき、社協の臨時職員である生活支援員が月1回程度、自宅を訪問して、お金の引き下ろしなどを行う。サービス利用料は1時間1500円が基本で、利用者が負担する。
事業の実施主体の社協は、都道府県、市区町村ごとに約2000の組織があり、現場の実務を担う市区町村の社協は職員数約14万人の巨大組織。地域の福祉、後見、医療等は社協抜きに成り立たないと言われている。
社協は形式的には民間団体だが、実際は自治体の補助金なしに運営できない半官半民の組織だ。目黒社協の昨年度の約5億円の収入のうち、区の補助金や赤い羽根などの共同募金分配金、区からの受託金などを合わせると4億円以上にのぼる。
目黒社協は目黒区総合庁舎の1階と3階にある。目黒区南部包括支援センターの運営を区から受託しており、区の包括と目黒社協は表裏一体の関係だ。